北見 創(きたみ・そう)
日本貿易振興機構(ジェトロ)カラチ事務所に勤務。ジェトロに入構後、海外調査部アジア大洋州課、大阪本部ビジネス情報サービス課を経て、2015年1月からパキスタン駐在。
ジェトロは12月6日~8日、日本製品の展示商談会を開催した。出展者からはパキスタン市場は有望との声が聞かれ、来場者にはジャパンブランドの根強い人気が見て取れた。難しいのは、積極的な集客やPR活動は、リスクをも集めてしまうという点。安全に販促をするために、地元に通じた良いパートナーを見つけたいところだ。
◆パキスタンへの取り組みを再開する企業
ジェトロは、12月6日~8日の3日間にわたり、カラチ市内で「ジャパン・ビジネス・エキシビション2016」を開催した。日本企業や日本製品の代理店など18社・団体が参加した。出展、来場した日本企業関係者に話を聞くと、直近ではパキスタン市場への取り組みは強化される傾向にあるという。
出展していた繊維機械メーカーA社の担当者は「治安が悪化していたのでパキスタンから遠ざかっていたが、最近は地場財閥系アパレルメーカーからの受注が伸びている。当社にとって、パキスタンは今後益々重要な市場になる」と語った。
他にも、「しばらくご無沙汰だったものの、自動車なども売れているようだし、取り組みを再開した」といった声が複数の日本企業関係者から聞かれた。
◆ジャパンブランド、最後のチャンス?
ジャパンブランドの威力は衰えていないようだ。出展者の一人で、パキスタンで衛生用品の販売、化粧品のマーケティングなどを手がける株式会社誠やの三原理絵CEOは「メイド・イン・ジャパンのスキンケア製品への関心が高い。展示会を通じて人脈を広げ、販売網を拡大できれば」と語る。
ジャパンブランドが人気である理由は、歴史的な背景がある。独立後の1950年代~60年代、パキスタンは日本へ綿を輸出し、日本からは繊維機械などを輸入していた。パキスタン綿は日本の戦後復興に大きく貢献し、両国の先人達はWin-Winの友好関係を築いた。
パキスタンの地場財閥では、繊維の商売で拡大したグループが多い。現在、財閥グループの指揮を執る世代の、ジャパンブランドへの信仰は格別なものがある。
しかし、日本企業がパキスタン市場から遠ざかっていた間に、変化も生じた。展示会に訪れた、とある地場財閥グループの会長は「今まで私の工場では、機械は全て日本製を使っていた。だが、社員の意見もあり、一部の工程で中国メーカーの物に切り替えた」という。他の工場でも似たような変化が起きている。「日本は大切な友人だから、この状況を参考情報にして欲しい」と忠告する。
財閥グループを担う次の世代は、ジャパンブランドへの信頼が厚いとは限らない。今、日本企業の取り組みが再開されれば、間に合うかもしれない。今後10年間が最後のチャンスになる可能性もある。
◆地元に通じた販売パートナーを
ところで、今回の展示会で最も難題であったのは、「PR活動は顧客も呼び込む一方、リスクも呼ぶ」と言う点だ。展示会は人を集めてナンボであるが、不特定多数の人が集まる場所は、テロリストの格好の標的になり得る。
今回は来場者を完全招待制とし、数度のセキュリティーチェック、爆発物検査など、安全管理を慎重に行って運営した。比較的購買力の高い層にターゲティングし、不特定多数の来場者は来られないようにした。しかし、多くの来場者は望めないのが難点だ。
一般的な店舗では、安全対策はどうなっているのか。例えば、とある物騒な地区の自動車ディーラー店舗では、展示してある自動車のトランクに機関銃を詰め込んである。強盗や過激派組織などが襲撃してきた場合、それを使って応戦するという。日本人には想像を絶する話だ。
こうした状況であるため、やはり営業販売は、地元の状況を最も理解しているパキスタン人に任せることが肝要である。良い販売代理店を見つけて、いかに意欲的に動いてもらうかが、成否の鍵を握る。
展示会に訪れた地場代理店からは「B社の機械を売りたいが、『危険だからパキスタンには行かない』と言って聞く耳を持ってくれない。ライバルが輸入しているC社の機械は最近、売り上げが好調らしい。日本人がよく出張に来ていてるからだ」と嘆く声が聞かれた。
機械はメンテナンスが必須だから、出張者が来てくれなければ、最初から勝負にならない。パキスタンと日本の関係は「世界一の片思い」といわれる由縁を垣間見た気がした。
(※)「株式会社誠や」の詳細はウェブページをご覧ください。
Company web site:www.makotoya.co
Facebook :@makotoyapk
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