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英ロールス・ロイス贈賄疑惑の波紋
『国際派会計士の独り言』第15回

2月 27日 2017年 経済

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内村 治(うちむら・おさむ)

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オーストラリアおよび香港で中国ファームの経営執行役含め30年近く大手国際会計事務所のパートナーを務めた。現在はタイおよび中国の会計事務所の顧問などを務めている。オーストラリア勅許会計士。

英ロールス・ロイス社が贈賄疑惑で揺れ、さらにそれが起こった幾つかの新興国で対応に追われているようです。と言っても、庶民にとっては夢のまた夢、英女王の乗用車ベントレーと並ぶ1台数千万円の英国の高級車を造るロールス・ロイス・カーズ社(Rolls Royce)ではなく、経営危機による国有化の後、今では別会社となっている主に航空用エンジンや船舶用エンジンなどを製造販売するロールス・ロイス・ホールディング社(以下、RRH)のことです。

RRHは2013年以来英国の重大不正捜査局(SFC)による複数の新興国での代行者によるビジネス獲得のための贈賄容疑で調査を受けていました。昨年末に起訴繰り延べ合意をSFCと締結し、約497億ポンドさらにその金利を支払うことで合意しました。同時に、調査を行っていた米司法省とブラジル当局に対しても、それぞれ1億7千万ドルと約2千6百万ドルを支払うこととなりました。

◆英国の贈収賄法

英国のSFCは刑事司法法に基づき重大な不正事件などを担当する局で、今回は他国の司法当局とも連携してRRH社を調査しています。適用されるのは贈収賄など不正支出に対しての英国の規制法、11年に導入された贈収賄法があり、その対象範囲は海外の公務員だけでなく一般市民も含め事業円滑化のための支払い(ファシリテーション:Facilitation Payment)を含むものとしています。

もっともファシリテーションを実行する仲介代行者の起用自体については違法ではないとしています。また、法人による通常のビジネス上の接待や販売促進についても、その実態が贈収賄罪に該当しなければ、同法の適用は受けないものとしています。

英贈収賄法は、適用範囲が広く、英国に所在する法人だけでなく、子会社や関連会社を有する外国法人にも一定の支配や管理がある場合、該当することもあり得るとしています。また例えば、英国に駐在員事務所を持つ外国法人もその対象となりうるということです。

ただし、法人について不正防止、発見とその改善などに関して適切十分な内部統制システムが存在し機能している場合には、贈収賄法上の罰金や刑罰などについて減免されることがあるということで、英国に何らかのプレゼンスがある場合、日本企業も十分な検討と対応が必要になりそうです。

米国の海外腐敗防止行為防止法(Foreign Corrupts Practices Act-FCPA)は、外国の公務員に対する 贈収賄について 防止、場合によって訴追することを主目的としています。改正により本格導入された1990年代終わりからで米国企業だけでなく、シーメンスやダイムラーなどの欧州企業やブリヂストンなど幾つかの日本企業も訴追対象となっています。ただし、罰金など(企業は200万ドルまでの罰金または、稼得したとみなされる利益か損害の倍額のいずれか多い方)とともに、個人に対する禁固刑もあるため、リスクは極めて大きいと言えます。また、信用・ブランド価値の下落など企業にとっての評判リスクにも考慮する必要があります。

それに対して、英贈収賄法は、罰金などに関しての金額制限がないことがあり、これも大きなリスク要因と言えます。

◆各国への広がりと影響

RRH社の贈収賄疑惑の捜査は、英国だけで終わるのではなく、実際にその金品を受け取ったと思われる仲介者と共に受益者である企業や個人のいる第三国での訴追がそれとともに行われます。

RRH社の贈収賄疑惑のもともとの発端は、インドネシア子会社の元駐在員による数年間にわたる内部告発だと聞いています。インドネシアでは、ガルーダ・インドネシア航空への売り込みの中で、仲介者経由でスハルト元大統領の親族に多額の金銭と高級車が供与されたとの報道もあります。

ブラジルについては既に罰金が科されていますが、他にもタイのタイ航空への売り込みなどについてタイ当局での調査が始まっているようです。また、他の新興国、中国での東方航空、インドでも売り込みについて仲介者が関わっていたとの報道もあります。

国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナルが今年1月に発表した腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)によれば、シンガポール、香港と日本を除いて、アジアの多くの国は公的部門が「腐敗している」か「とても腐敗している」に該当するということです。贈収賄に代表される国の公的部門の腐敗について、それぞれの形で対策に取り組んではいますが、アジアの数多くの国での対応はまだ道半ばと言えます。

韓国のサムスン電子の副会長・李在鎔(イ・ジェヨン)氏が、朴槿恵(パク・クネ)大統領とその友人・崔順実(チェ・スンシル)被告に贈賄を行ったとの容疑で逮捕されたことも、最近のマスコミをにぎわせました。また、香港の高等法院(高裁)は22日、在任中に中国での不動産賃貸について適切な報告義務を怠たるなどしたとして、香港政府のトップだった曽蔭権(ドナルド・ツァン)前行政長官に禁錮1年8カ月の判決を言い渡すというニュースも飛び込んできています。それらとともに、いまだRRH社による贈収賄疑惑の捜査は終結しておらず、今後のアジア各国での展開に目が離せません。

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