п»ї 崩壊は身内から始まる 安倍政権に末期症状 『山田厚史の地球は丸くない』第114回 | ニュース屋台村

崩壊は身内から始まる 安倍政権に末期症状
『山田厚史の地球は丸くない』第114回

4月 14日 2018年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

身内のはずの官僚に疑念をぶつける国会質問が自民党議員に目立ってきた。11日の衆議院集中審議で柴山昌彦議員は質問した

「捜査といえば、大阪地検女性特捜部長のリークがどんどん出てくるとツイッターでコメントした議員もいらっしゃいますが、もし捜査当局からそのようなリークがあったとしたらどのような国家公務員法上の問題が出てくるのか、念のために伺いたい」

◆不都合な事実が次々と

答弁に立ったのは、辻裕教法務省刑事局長。一般論と前置きしながら
「国家公務員たる職員が職務上知ることのできた秘密を漏らした場合には、国家公務員法上の秘密漏えい罪が成立するものと承知してございます」

他人がツイッターでつぶやいた言葉を国会に持ち出し、「大阪地検女性特捜部長」と名指して「リークがどんどん出て来る」と指摘する。国家公務員法に触れるのではないか、と検察の元締めである法務省に見解を求めたのである。刑事局長は「国家公務員法の秘密漏えい罪に当たる」と応えた。このやり取りは「恫喝(どうかつ)」ではないか。

朝日新聞が決算文書の改ざんを特報し、膠着(こうちゃく)していた局面が動き出した。財務省が事実を認め、組織を挙げた不正が明るみに出た。

更にNHKが、財務省が森友学園に「口裏合わせ」を求めていた事実を報じた。ゴミの搬出に数千台のトラックが走り回ったことにしよう、という姑息(こそく)な提案が、あろうことか財務省側から学園側に提案されていた。

いずれも佐川宣寿理財局長(当時)が国会で行った答弁に「辻褄(つじつま)を合わせる」する苦肉の策である。

不都合な事実が次々と報ぜられるのは、「地検がリークしたから」と柴山議員は考えたのだろう。管理者である法務省刑事局長にぶつけ、「特捜部長がリークしているのを法務省は放置しておくのか」と暗に抗議したようなもので、「秘密漏えい罪に当たる」と法務省に言わせたのである。

参議院では自民党の和田政宗議員が、財務省の太田充理財局長に対し
「安倍政権をおとしめるために意図的に変な答弁をしているのか。太田局長は民主党政権の時、野田総理の秘書官だった。自民党を倒そうとしているのではないか」と問いただした。「低レベルの質問」(麻生財務相)と自民党内でも顰蹙(しんしゅく)を買い、議事録から削除されたが、質問というより苛立ちをぶつける発言だった。

◆官邸の「指示」がストレートに通らなくなった

和田・柴山両議員に共通するのは、支えとなるべき検察や財務省が政権に刃向かっているのでは、という疑念である。身内が信じれない。政権末期の症状ではないか。

霞が関の官庁街に、政権との距離を測る動きが出てきた。官邸の「指示」がストレートに通らなくなった。典型が放送法4条の見直しだ。政治的公平を定めた放送法の規定を撤廃する。放送の規制緩和を掲げた文書が今年になって関係先に出回った。規制改革会議に諮り、政府方針になる官邸主導の「改革」である。

自由な放送局を設置できるよう法改正を目指す、というが民放がこぞって「ニュース女子」のような番組を作ることが可能になる。そんな官邸主導に放送業界ばかりか自民党や総務省から異論が噴出した。

「安倍一強に陰りがさしはじめたのは、朝日新聞の報道がきっかけだ」
自民党の閣僚経験者は云う。決裁文書の改ざんが報じられたのは3月2日。報道が正しければ政府は致命傷を負うが、財務省はいつものようにとぼけ、官邸は「根拠のない情報だ」と朝日攻撃を展開するかもしれない。

改ざん前の文書を朝日は持っていないのではないか。安倍政権は存在する文書さえ「無いこと」にしかねない。八方手を打って「言いがかりだ」と攻勢に転じたら朝日は抵抗できるのか。

官僚も政治家も慎重に成り行きを見守っていた。結果は朝日の勝ちだった。財務省が改ざんを認め、局面は大きく変わった。

政権は全てを抑え込むほど万能ではないことが明らかになった。官邸には逆らえない、という空気が緩む。防衛省は「無かった」としていたイラク派遣の日報を「ありました」と提出した。財務省が認めたのならこっちも正直に出してしまおう、ということである。出せば安倍政権が打撃を受けることを知りながら。

森友学園を巡る疑惑追及は、国会では「水掛け論」で終始した。「刑事訴追の恐れがあるので答弁を差し控えたい」と言えば追及から逃げられる。だが、強制捜査権を持つ検察ではそうはいかない。押収した証拠を積み上げて自白を迫る。明らかになった事実がメディアを通じて世間に知れ渡ることになる。

官邸に直属する内閣人事局は各省の審議官以上(審議官・局長・事務次官)の人事を握っている。検察・法務省の上層部は安倍人事と言われ、官邸の意をくむ官僚が主要ポストに就いている。だが、一線で捜査に当たる検事は必ずしも上層部におもねる者ばかりではない。大阪地検には「村木事件」という不名誉な教訓がある。厚労省の局長を逮捕して見栄えのいい事件をでっち上げるため証拠改ざんに手を染めた、おぞましい事件だった。

◆秋の総裁選、怪しくなった「安倍三選」

検察とは何ためにあるのか。検事の仕事とは何か。正気に立ち戻れば、上司を忖度(そんたく)しながら進める従来の捜査でいいのか、という反省がおのずと生まれる。

森友疑惑は、国有財産を値引きして売却したルール違反だけでなく、もう一つ大きな課題を提示した。公務員の悪しきサラリーマン根性だ。上司や権力者におもねて、行政を歪(ゆが)めることに不感症になっている公務員の在り方が問われている。

真面目な役人が値引きのために「悪知恵」を出したり、上司の答弁を正当化するため決算文書の改ざんをしたり。大阪地検の検事が証拠のフロッピーデスクを改ざんしたことの通ずる「あってはならないこと」が現場でまかり通っていた。これを正さないで地検は反省したことになるのか。そんなことを思った検事がいてもおかしくない。

財務省でも反省が起きている。首相夫人の存在を意識したばかりに、官邸の意向を忖度してとんでもないことが起きてしまった。

これまでは「言っても無駄」と諦めていたことが、ヒソヒソ話だが出来るようになった。そんな空気の変化が、政権の土台を崩し始っている。政権の崩壊は、内部から始まる。

官僚が官邸から距離を置くようになった。与党で公明党が発言力を増す。自民党内で安倍一強が崩れ、石破茂議員や小泉進次郎議員の発言が目立つようになった。

内閣支持率は急降下している。政権への「飽き」が濃厚になった。「安倍三選」が確実視されていた秋の総裁選の雲行きも怪しい。憲法改正論議にも影響がでそうだ。

安倍政権では来年の統一地方選挙や参議院選挙が戦えない、となれば一気に「安倍下ろし」が始まるかもしれない。

驕(おご)る長期政権に終末が近づいている。「石破首相・小泉幹事長なら気分は一新され政界の新風が吹く」などという期待感も漂い始めた。

それでいいのか。表紙が変われば、それでいいのか。有権者の本気度は、これから問われることになる。

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