п»ї 4年連続世界一!タイ観光業の底力『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第153回 | ニュース屋台村

4年連続世界一!タイ観光業の底力
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第153回

10月 04日 2019年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

oバンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住21年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

米国のクレジットカード会社マスターカードが9月3日に発表した2018年の世界の旅行先都市ランキングでバンコクが4年連続の1位となった。2位以下はパリ、ロンドンと続き東京は9位。この他プーケット、パタヤがそれぞれ14位、15位と上位20都市にタイはなんと3か所もランクインした。下表が20位までの世界都市ランキングである。

「寛容さ」「謙虚さ」「人なつっこさ」

私が現在住んでいるバンコクが、なんと4年連続で世界1位になっている。そう言えば、街の中には多くの外国人旅行者がいる。街の中心部を走る高架鉄道(BTS)に乗ると、中国語、韓国語、英語、ドイツ語などさまざまな言語が聞こえてくる。数年前までは、日本人が外国人旅行者の中で最多であったが、現在は6位まで順位を下げてしまった。親日国タイもいまや中国人、韓国人に席巻されてしまっている。

人々はなんでそこまでタイに引きつける引き付けられるのであろうか? タイが常夏の国で、美しい海岸線を有するすばらしい自然に恵まれていることもあるであろう。しかし大都会バンコクが世界1位になっている理由には該当しない。私は、タイ人の「寛容さ」「謙虚さ」「人なつっこさ」が重要な要素となっていると考えている。以下、いくつかの例を見ていきたい。

まず、「寛容さ」である。バンコクにはあらゆるタイプの外国人が居住する。出身国、民族、宗教、年齢。金持ちだけでなく、いかにも貧しそうな不良外人も多くたむろしている。時には道路で寝ている。しかしそれに対し、タイ人は目くじらを立てることはない。何事もなかったように、ぼろぼろの洋服を着た外国人(その中には年をとった白人も多くいる)の横を通り過ぎている。

常夏で食べものに恵まれたタイでは、餓死も凍死もない。働かなくても生きていける。こんな国だからこそ、働かない人たちに対しても、寛容なのである。あらゆる境遇の人に寛容である。その良い例がLGBTなどの性的少数者の人たちに対してである。日本のニューハーフタレントである「はるな愛」がニューハーフのビューティーコンテストの世界大会でる「ミス・インターナショナルクイーン」で優勝した。2009年のことで、覚えておられる方も多いことだろう。この大会は毎年タイのパタヤで開催される。バンコクやパタヤにはニューハーフショーを催す劇場がいくつもあり、タイの観光振興に一役買っている。

それだけではない。バンコクの街中を歩けば、男性同士や女性同士のカップルがごく普通に沢山歩いている。医学的にはLGBTの人は左利きの人と同様に9人に1人の割合で存在しているといわれている。街中には同姓カップルが普通に見受けられても不思議ではない。タイではそうした人たちがLGBTであることを隠さないだけである。またそれを受け入れるタイ人の寛容さがある。ところが、日本ではこうした光景は多くは見られない。

「寛容さ」と「人なつっこさ」は子供に対しても示される。街中で母親に伴われた小さな子供を見つけると、タイ人は無条件に子供をかまいにくる。私も2歳になる孫を連れてレストランに行くと、ウェーターが店内ツアーに誘うなど面倒をみてくれたりする。また飛行機内で赤ちゃんが泣き叫んでも大人たちは怒ることなく、逆に赤ちゃんをあやしてくれる。日本では目くじらを立てる大人が多くいると思うが、タイではそんなことはない。

少し脱線するかも知れないが、タイの職場では子供が走り回っていることがままある。母親が働くことの多いタイでは、夕方になると子供たちが学校から職場に集まり、会社の就業時間が終わると、親と共に帰宅する。また子供が病気になったり、家政婦が休みになったりした時にも子供を会社に連れてくる。会社の同僚はそのことに嫌な顔をしない。むしろ積極的に子供の相手をしている。これも日本では考えられない光景である。

◆比類ない食の魅力も

バンコクの食事のおいしさもタイ人の「寛容さ」が現れているのではないかと思っている。バンコクの屋台やフードコートで「バーミー」「センミー」といったタイラーメンをオーダーすると気がつくことがある。魚醤(ぎょしょう)、砂糖、酢、トウガラシの調味料が必ず置いてあり、タイ人は食事を食べる前にこれらの調味料を加味して自分なりの味に仕上げる。これはタイラーメンに限ったことではなく、ほかのタイ料理でも同様である。

「自分はプロの料理人で自分の作った調理は絶対である」みたいな日本の高級店でありがちな態度は見受けられない。もっとも日本のラーメン店にも最近はニンニク、トウガラシなどのトッピングが普通になっており、料理によっては柔軟な対応をとるようになってきている。

食事についてはもう一つ。バンコクには世界中のおいしい料理が勢ぞろいしている。世界一のグルメ都市といってもよいと私は思っている。もちろん異論をお持ちの方も多くいるだろう。日本の懐石料理やすしは世界に誇れる食べものである。繊細なフランス料理や食材の味を生かすイタリア料理。中国料理も忘れてはならない。世界各地においしい料理がある。しかしバンコクは、この地にいながら、これら世界の本場のおいしい料理が食べられる。

こう私が言うと「そんなことはない。日本でもおいしいフランス料理やイタリア料理の店がある」と反論されてしまうであろう。確かに、日本にもミシュランの星を取った超高級なレストランが存在する。しかしこうしたレストランの多くは現地料理に日本の懐石料理の趣を加えたようなフュージョン系料理となっている。ところがバンコクには値段が手頃で現地の味を再現している世界の料理店が多くある。

その違いを見てみると、タイのフランス料理店やイタリア料理店では、それぞれフランス人やイタリア人が当地に来てシェフを務めている。ところが、日本の西洋料理の場合、日本人シェフが現地に行って修行した後、日本風にアレンジした西洋料理になっている。日本でも中国料理、韓国料理、インド料理などはそれぞれの国の人が作っている店が多いが、味が日本風にされてしまっているケースが多い。そもそも牛肉や豚肉を食べず菜食主義者の多いインドのカレーでも、日本にあるインド料理専門店では牛肉や豚肉のカレーが中心だ。日本人そのものが味の多様性に対応出来ないのであろう。

更にタイ人は味覚にも大変優れており、タイ人料理人は各国の味の再現が出来てしまう。こうしてタイ人シェフが料理する各国の料理店も沢山出来てくる。外国人旅行者がタイに来ても安心して自国料理を楽しめる。これもタイの観光業を強くしている大きな要因だと思っている。

◆日本の観光業がタイから学ぶべき点

これまでタイ人の「寛容さ」について述べてきたが、「謙虚さ」についても述べてみたい。私は日頃から、タイ人に囲まれて生活している。たまには、タイの官僚や実業家の人たちにも会う。その多くのタイ人は、日本人に会うと「日本は技術の発達した素晴らしい国で、タイは日本から多くのことを学ばなければならない」と真顔で言う。もちろん、お世辞も入っているだろう。しかし過去20年にわたり、急激に進歩してきたタイは、いまや日本より優れている面が沢山ある。それでもタイ人は日本に対する敬意を示してくれる。

その背景には、西欧列強や米国、中国、日本などからの侵略の危機にさらされてきた過去の歴史があり、また自国を「小国」ととらえる世界観がある、現にこの観光の課題についても最高の事例がある。タイにおいて、観光推進の最高責任者であるユタサック観光庁長官に何度かお会いしたことがある。その際、ユタサック長官はいつも「日本は観光推進で成功されているが、ぜひそのやり方を教えてほしい」と言われる。観光では日本の先を行くタイの観光庁長官ですら、こうした発言をされるのである。「まだまだほかの国から学びたい」という謙虚な姿勢が読み取れる。

翻って日本。テレビをつけると、外国人が日本各地を讃美する旅番組にちょくちょく出くわす。日本を「おもてなし大国」として国民受け狙いで視聴率をかせぐことが目的なのだろう。確かに訪日外国人観光客数は年々増加しており、日本の観光業の実力も確実に上昇してきている。「正確さ」「清潔さ」「礼儀正しさ」は日本人のお家芸である。こうしたことを観光振興に生かして外国人観光客数を増やしてきた。しかしこれとは全く違った形でタイは観光業を成功に導いている。タイ人のこうしたやり方を謙虚かつ寛容に学べば、日本の観光業はさらに飛躍するのではないだろうか。

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