п»ї 「リベート社会」を考える『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第9回 | ニュース屋台村

「リベート社会」を考える
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第9回

11月 29日 2013年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住15年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

コンプライアンスの妄想に取りつかれた日本人にとって「リベート」は悪である。金は汚らわしいものとして扱われ、取引先との金品のやり取りは厳禁。一方で下火になったとはいえ、いまだ飲食やゴルフの接待は平然と行われている。

◆華僑の3:3:4の原則

タイに来て華僑の社会に入り込み、彼らの生き方を見ていると、日本人とのいくつかの違いに気づかされる。その一つが、華僑の「3:3:4の原則」である。日本の方にとって全くなじみのない原則であるが、この原則は華僑の方が商売などで利益を挙げた時の分配方程式である。

具体的には、あなたが10の利益をあげたら、3は従業員に還元、3は取引先に還元、4は自分の利益として残すという思想である。従業員に還元する3はボーナスであるが、取引先に還元する3はいわゆる「リベート」ある。すなわち華僑の商売では「リベート」が前提となっているのであり、関係者が利益を分けあう形で商売が繁盛していくのである。

◆日本は交際接待費天国

一方で、華僑の社会では通常、「交際接待費」などない。顧客との飲み会などは取引先に還元する3の資金が出されるものであり、個人の懐から払われる。現に、バンコック銀行も交際接待費枠を持っているのは、日系企業を担当している私を含めてほんの数人である。

こうした交際接待費は華僑の目から見ると、日本人とは反対に異様に映る。日系企業と合弁会社を運営する華僑の方からは、日本人が交際接待費で飲み合いすることを「会社の金を盗んでいる」と同じではないか、と疑問を呈される。

日本人であれば、すべからく会社の金を勝手に使えるのは全く理解出来ないことである。なぜならば華僑の人が金をつぎ込むのは確実に自分の利益につながると見込まれるものに限られ、それも自分の金を使って行うからである。

それに対して日本人は、直接利益につながらない相手とも交際接待費を使い、時には社内接待すら行われる。こうした交際接待費文化は日本の「ガラパゴス現象」の一つである。

◆給与の別途支給―交際接待費

階級社会の消滅した日本は戦後、民主主義を曲解し「結果としての平等」政策を推し進めてきた。弱者救済のもとに弱者に手厚い支援を行い、成功者に対する報酬を低く抑えてきた。

特に、日本独持の終身雇用制度は、大企業の従業員に生活の安全を保障した。一方で、解雇が困難なため、固定費要素の強い人件費支出が増加する危険性が高まる。これをコントロールするため、大企業は給与の上昇を抑えるとともに交際接待費や出張費などを給与の代替物として利用したのである。いったん不況になれば、会社は社内接待をやめさせ、海外出張時にはエコノミークラスを使用させる。こうして経費の抑制が簡単に出来る。

日本とタイを往復していると面白いことに気付く。日本航空や全日空など日本の航空会社のビジネスクラスに乗ると、大半の人が背広を着たビジネス客なのに対し、タイ航空のビジネスクラスは、タイ人の家族客や友人客が多いのである。日本人には個人で金を使うことが出来る金持ちが少ないのである。

◆友人関係の構築

タイでは接待を含め、リベート行為は個人の金が支出源となる。タイは保護・被保護の関係社会構造で成り立っている(9/6付の拙稿「赴任した国を好きになる努力をする」をご参照下さい)。こうした社会構造の中で、保護者は自分の金で食事をおごることなどで保護者の立場を維持するのである。同様に、顧客との信頼関係の醸成には飲食のみならず、金品のやり取りは有効である。

ただし、それが個人の支出で行われる場合は、社会的には、友人関係として取り扱われるのである。これは、華僑の取引だけではない。私が10年駐在した米国社会も同様である。

米国の上流社会やユダヤ人社会を垣間見た私には、コンプライアンスに引っかからず、上手に人間関係を構築している米国上流階級のやり方が極めて自然に映る。一方で、日本の会社は、不用意にライバル会社とも飲食を共にし、ご丁寧にも領収書まで残すなど愚の骨頂としか思えない。

◆リベート社会へどう対応すべきか?

それでは、リベートとは社会の潤滑油として許容すべきものであろうか? 難しい質問である。

リベート社会が拡大すると、政府の途上国援助(ODA)など援助資金や税金など公金までが横領され、過度に不平等が進展する。深刻な社会問題を引き起こす。しかし、社会構造や商習慣が他国と異なり、かつコンプライアンスの呪縛にとらわれた日系企業は、こうしたリベート社会に目を背ける。実際に、多くの国にこうした習慣があるにもかかわらず……。

結果は、日系企業のじり貧の衰退である。現実を直視しないものに成功はない。

個人の友人関係として信頼関係を構築していく西欧や華僑のやり方は、リベートとは呼ばれない一つの方法である。また現地の企業との共同作業によりリベート社会を克服する方法もある。今こそ日系企業は各国ごとに存在する商慣習という現実を見つめ、知恵を出していかなければならない。

One response so far

  • 石橋 修 より:

    先日はありがとうございました。
    談合を含め日本のよき慣習、生活の知恵を見直したいと思います。

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