п»ї 「三現主義」を貫く『ものづくり一徹本舗』第25回 | ニュース屋台村

「三現主義」を貫く
『ものづくり一徹本舗』第25回

8月 28日 2015年 経済

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迎洋一郎(むかえ・よういちろう)

1941年生まれ、60年豊田合成入社。95年豊田合成タイランド社長。2000年一栄工業社長。現在中国、タイで工場コンサルタントを務める。自称「ものづくり研究家」。

私生活や仕事上では、いろいろな人たちとのお付き合いがある。いろいろな人たちとお付き合いをしていると、話の行き違いやすれ違い、議論での衝突、さらには経験話への感服などがあり、人生は面白かったり、落胆したりである。人生さまざまな出来事に遭遇するが、こと仕事となると「人との付き合い方」も成功に結びつかなければ悔いが残るものである。「人の話をどう受け止めれば正しく理解できるか」。今回は、最近の経験も含めてこのお話を紹介してみたい。

◆台風の夜のスズメ捕り

これは今から40年ほど前の私の実体験の話である。中学時代の同期会が故郷の長崎・佐世保で催され、50人前後の同級生が集まった。楽しく皆で語らった後、まだ帰りたくないと言う男性10人ぐらいが2次会と称し車座で雑談を始めた。場が盛り上がってきたところで、K君が一同に向かって「スズメを効率的に沢山捕まえる方法を教えてやろうか」と提案してきた。

その土地では男の子であれば誰しも、子供の頃小鳥捕りの経験をしている。しかしうまく捕れたためしなどない。大の男10人がこのK君の提案に興味津々である。K君は話を続けた。

「スズメを捕まえるのは秋の台風シーズンでないとうまくいかんのだ。なぜか? スズメは鳥目といって暗闇では目が見えないため、夜は活動をせず木にとまる習性がある。一方、スズメは雨などで羽を濡らすと身体が重くなり自由に飛べないのだ」

「さらに秋になると稲穂の実りの恩恵をうけて、スズメもまるまると太ってくる。脂も乗ってスズメが一番おいしい時期である。この頃になるとスズメは大きな集団をなし、夜は小枝の多い竹林にねぐらを構える。そこに台風が来れば、雨風は強くなり辺りは暗闇の世界で、スズメたちは必死で小枝につかまっている」

「そこに我々が出向き、懐中電気で地面を照らし竹の立木を思いきり揺らせば、スズメたちは次々と地面の明りに向かって落ちてくる。後は落ちてきたスズメを網ですくい捕ればいい。昔は台風が来るとスズメが捕れると喜んだものだった」

K君のこの自慢話には皆、感動をした。

その数年後、妻がお産のため、11月の初めに信州に里帰りした。妻が里帰りした数日後、私は弟と知人の3人で自宅で一献傾けていた。その日はちょうど台風が接近し、風雨が強い夜であった。酔った勢いでかのスズメ捕りの話をすると、「これから3人でスズメを捕り取りに行こう」ということになり、雨風が吹きすさぶ嵐の中を雨具で身をかため、近くの竹林に勇躍繰り出した。私は懐中電気と手網でスズメを拾う役、あとの2人は竹を思い切り揺する役。雨風に叩きつけられながら、「1、2の3」で活動を開始した。

さてあなたは、何羽のスズメが捕れたと思いますか? 結果は皆さんのご想像の通りである。この話は、私が改善活動を引き受ける前に必ず披露させていただいている。この話の中に幾つもの示唆があるからだ。

◆聞いて安心、見てびっくり

私が最初にタイに赴任して日本とタイの合弁会社の社長に就任してからすでに20年の歳月が過ぎている。その当時私を支えてくださった合弁会社のタイ側パートナーである T会長に対しては、今でも心の底から感謝をしている。しかし、ここ3~4年はT会長にお会いする機会がなかった。

昨年の秋ごろ、日本人の知人から「T会長はバンコクから200キロ東に大きな工場用地を取得され、グループ会社の半分近くを移転する計画を持っている。ところがこの移転にあたり、会社はいろいろ課題を抱えているようだ」との話を聞いた。大変お世話になったT会長のことを思い、不安がよぎった。早速T会長の下で働く日本人幹部A氏にそれとなく様子を伺ったところ、「全く心配いりません。私が責任を持って工場も見ており、改善もうまくいっていますから」とのことだった。「私の大切な恩人であるT会長をしっかりサポートしていただくようお願いします」。私はA氏の言葉に一安心して電話を切ったのであった。

ところが、である。昨年末、T会長の娘さん(営業担当役員)が来日され会食の招待を受けた。会食の席上、「今、当社は新工場建設、移転に関連して問題、課題が山積しており大変困っています。なんとか迎さんに助けていただきたい。この思いはT会長も同じです」と、突然依頼があった。今年7~8月には、1千人以上の従業員を旧工場から新工場に移動させ、新工場をすぐに稼働させる計画で進んでいるとのこと。残された時間を考えると「時すでに遅し」と思ったが、年明けに計画していたバンコク出張の合間を縫ってT会長の会社を訪問することにした。

今年に入り、T会長の案内で立派で大きな新工場の建設現場を見せてもらった。同社の今後の発展を確約するような立派な新工場である。翌日は移転前の現工場の製造現場を見せてもらった。ところが、工場に入ったとたんにあぜんとしてしまった。今の時代の工場ではお目にかかれないような生産現場がそこにあった。

工場長に聞いてみると、不良品は2桁のレベルで発生。ゴム成型品のバリ取り(材料を切ったり削ったりした際に材料の角にできる出っ張り〈バリ〉を取り除くこと)作業は通常の10倍程度の作業工程が発生している。きわめて非効率な作業が行われているのである。工場を回ってみると、機械設備の保守点検がなされておらず、金型の不良が目に付く。それにもまして問題だったのは、作業の標準化がなされておらず工員が勝手に作業をしていることである。

「昨年の秋に電話ではなくて、会社を訪問して自分の目で工場を確かめておけば良かった」と私は猛省をした。とは言え、時間の猶予はまったくない。すぐにトヨタ合成のOB3氏(生産技術、金型技術、品質管理の元部長)にこの会社のアドバイザーに就任してもらい、会社建て直しのために次の手を打ったのである。

1、工場移転プロジェクトチームの結成と計画的推進……会社のトップが最高責任者でアドバイザーが毎週進度状況確認フォロー

2、人的生産性を2倍にして新工場従業員を最少配置にする……標準作業、設備、人可動率80%以上。金型の改良によりハサミバリ切り禁止

3、日本のゴム会社との技術支援契約締結……成形・加工技術開示指導を受ける
とりあえず緊急事態対応で何とか危機は乗り切れそうなめどが立ったが、いまだ気が抜ける状態ではない。アドバイザーに就任してくれた3氏には心からお礼を言いたい。

◆現地に赴き、現物に触り、事態を現認する

二つの事例を紹介したが、私は人と向かい合う時にいつも自分自身に対して二つのことを肝に銘じている。

1)私は対話の相手の技量を見抜く洞察力が弱い

2)洞察力が弱いから、三現主義(現地・現物・現認)を貫く

最近はコンピューター化が進み人同士の会話や報告の機会も減ってきているので、「三現主義」が顧みられず、判断ミスもより多く発生していないか危惧(きぐ)している。

さて、言い忘れたが、前述の台風の夜のスズメ捕りの話。スズメはなぜか騒ぐばかりで落ちてはこなかったのである。

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