п»ї インターネットは国境を超えない(こともある)『タマリンのパリとはずがたり』第5回 | ニュース屋台村

インターネットは国境を超えない(こともある)
『タマリンのパリとはずがたり』第5回

9月 19日 2014年 文化

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玉木林太郎(たまき・りんたろう)

経済協力開発機構(OECD)事務次長。35年余りの公務員生活の後、3度目のパリ暮らしを楽しむ。1万数千枚のクラシックCDに囲まれ、毎夜安ワインを鑑賞するシニア・ワイン・アドバイザー。

この夏は、1914年8月の第1次大戦開戦から100周年、1944年(8月25日)のパリ解放から70周年なので、関連の催しや出版が目につき、ヨーロッパ全体が回顧モードに覆われていた観があった。

しかし9月の声を聞くと、パリはもう秋の気配である。

今年のパリの音楽シーズンの話題は、新しいコンサートホール、ラ・フィルハーモニーのオープンだろう。紆余(うよ)曲折を経て最終的に2006年に建設がスタートし、3.8億ユーロの巨費を投じた新ホールは、ベルリンのようなヴィニヤード(ブドウ畑)スタイルで2400席を擁し、日本の永田音響設計がホールのアコースティックを担当した。

パーヴォ・ヤルヴィ率いるパリ管弦楽団とウィリアム・クリスティのレ・ザール・フロリサンがここを本拠地とする。(ヤルヴィは来年9月からNHK交響楽団の首席に就任する。そして16年夏のパリ管との契約更新には応じず、N響により多くの時間を割くと表明した。うれしいような、パリの住民としては損したような……)。

◆世界中のラジオ局が聞ける

この新ホールの問題は立地である。ミッテランの時代から音楽関係の施設がパリの北東19区のヴィレット公園に集められてきて、コンセルヴァトワール(音楽院)もさっさと1990年にここに移転した。

今まで凱旋(がいせん)門を少し北にあがったサル・プレイエルに通っていた我々は、来年1月からはヴィレットの新ホールまで出かけなければならない。  

西の端の住人にとって、夕方のラッシュ時にパリを半周するのは時間と気力を大いに必要とする。メトロでは時間がかかるし、夜遅くウロウロしたい場所柄でもない。というわけで、来るべきシーズンの予約をどうしたものかと思案に暮れているうちに秋を迎えてしまった次第。

音楽会場が遠くに行ってしまわなくても、年を重ねるごとに出かけるのが面倒臭くなっているのは私だけではないだろう。オフィスから戻って音楽をかけワインの栓を抜き(この二つはほぼ同時)、暮れなずむパリの街を眺めていると、もう十分。

ウチでゆっくりするかという時に、最近よく手を伸ばすのがステレオではなくパソコンである。インターネットで世界中のラジオ局が聞ける。インターネットのデジタル信号をアナログに転換する器械(ちなみにD/Aコンバーターと言います)を間に入れてアンプとスピーカーにつなげば、CDを上回る高音質で聴くことも可能。FMチューナーはトリオ製が一番などとやっていたのも今は昔である。

◆NHK-FMはなぜか国内限定

インターネットラジオの楽しみはいくつかある。まずは世界中の(クラシック専門)ラジオにアクセスできること。かつてワシントンで芝刈りを済ませた土曜の午後にビールを飲みながら聴いていたメットの中継も、パリで夜楽しめる。

王様BBC3はプロムスやシェークスピア劇もやってくれるし、ミネソタの公共放送からロシア語放送まで飽きることがない。我がフランスの二つの放送局は(音楽よりも)おしゃべり重点。

ラジオにアクセスする楽しみには、各地の演奏会の(生)中継を聴けることがある。日本にいるとヨーロッパからの放送は夜明け前の時間帯になってしまうが、現地にいれば夕食後にいながらにして会場のざわめきを楽しめる。

また、ラジオと言っても電波放送しないインターネット専門局も増えてきており、中にはわずかな広告収入と寄付で支えられ趣味に徹したものもある。

例えばモーツァルト専門局があり、楽章単位で細切れに放送し曲名を読み上げないので、ケッヘル番号を当てるのが楽しい。台所で洗い物をしていた私が突然辞典をめくり出すのを家人は奇異な目で見ているが、ケッヘル番号を確認するという大事な作業をしているのである。

世界中の放送局が聴けると言っても例外はある。我がNHK-FMはなぜか国内限定なのである。なぜ海外で受信させないように制限をかけているのか、総務省に聞いてもロクな理由はない(著作権の問題ではないという。受信料を払っていないから?民業圧迫?)。海外に情報発信を強化すると言っているのはどこの国だ? ヤルヴィが振るN響を聴かせてくれ!

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