п»ї エネルギーの動向と見通し『夜明け前のパキスタンから』第10回 | ニュース屋台村

エネルギーの動向と見通し
『夜明け前のパキスタンから』第10回

2月 12日 2016年 国際

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北見 創(きたみ・そう)

日本貿易振興機構(ジェトロ)カラチ事務所に勤務。ジェトロに入構後、海外調査部アジア大洋州課、大阪本部ビジネス情報サービス課を経て、2015年1月からパキスタン駐在。

パキスタンは、国内で生産される天然ガスなどで、1次エネルギー供給量の約6割を賄っている。しかし、近年は輸入した石油の使用量が増加傾向にある。長年の課題である電力は、発電所が徐々に増えているものの、抜本的な解消には至っていない。政府は中国支援による電源増設を目指す。直近ではカタール、トルクメニスタン、イランからの天然ガス輸入に向けての動向が活発化している。

◆石油エネルギーの割合が増加

まず、パキスタンの国内でどれくらいのエネルギーが生産され、外国から調達されているのかを見てみよう。国際エネルギー機関の統計(2013年)によると、パキスタンが国内で生産するエネルギー量は6520万TOE(石油換算トン)と、バングラデシュ、スリランカに比べて多い。実はパキスタンは国土が両国に比べて大きく、豊富な地下資源を持つ国である。

また、国内総生産(GDP)規模もバングラデシュ、スリランカに比べて大きく、エネルギー需要も高いため、エネルギーの輸入量は2130万TOEと、両国に比べて約4倍になっている。国内で生産されたエネルギーと、国外から輸入したエネルギーを合計し、国外に輸出したエネルギーなどを除いた「1次エネルギー供給量」は8600万TOE。タイのおよそ3分の2程度のエネルギー量となる。

しかし、パキスタンの人口は1億8千万人と大きいため、1人あたりのエネルギー量は0.47TOEと少なく、タイの4分の1程度になる。また、エネルギーを電力に変換する時のロスが大きく、1人あたりの電力消費量は448kWhと低い水準にとどまる。

◆石油の利用量が増加

エネルギー源も、日本などとは大きく異なる。パキスタン石油天然資源省が毎年発表しているエネルギー白書(2014年)によると、2013/14年度(パキスタンの年度は7月~翌6月)では、1次エネルギー供給量の46%にあたる3095万TOEを、ガスが占めている。天然ガスは枯渇が心配されているが、直近10年間では安定的に生産されている。地域別では特にシンド州にガス田が多く、全国の3分の2を同州で生産している。

石油の割合は徐々に拡大し、現在34%を占める。輸入元はアラブ首長国連邦、サウジアラビア、クウェート。石油の3分の2はガソリンなど輸送目的に利用され、残りは火力発電の燃料に使用される。水力(発電)は以前に比べれば微増しており、11%となっている。原子力は5年前に比べて3倍の供給量にはなったが、割合としては2%に満たない。

石炭の利用は減少傾向となっている。パキスタンにはタール炭田という推定埋蔵量 1750億トンという、世界第6位の巨大な炭田がある。しかし、採取できるのは褐炭という低品質の石炭で、現状では技術的に利用が難しい。輸入炭を使った火力発電所の調査も行われているが、エネルギーミックスの一翼を担うまでに至るには、まだまだ先の話になる。

パキスタンのエネルギーのフローをみると、エネルギー全体の3分の1を輸入に頼っていることがわかる。常にエネルギーが不足しているパキスタンは、エネルギーの輸出はほとんどない。また、エネルギー変換や配電・配送する際のロスが大きい。2360万TOEが利用される前に消える。

最終エネルギー消費は3982万TOEである。需要家側では工業用と輸送用が最も大きく、各1300万TOE。個人向けなど国内消費が988万TOEとなっている。

◆675MWの電源を追加

数あるエネルギーの中でも、パキスタンにとって現在、最も悩ましいのが電力だ。電力不足は長年の課題であり、シャリフ政権は「2018年までに解消を目指す」と公約に掲げている。

内の総発電量は2013/14年度で10万3670ギガワット・アワー(GWh)。電源構成は石油火力が38.5%、水力が30.7%、ガス火力が25.7%である。水力が全体の3割を占めているのが特徴的だ。雨季から時間が経つにつれて、発電量が少なくなる。加えて、雨季直前の6~7月は気温が高いのでクーラーの利用量が増加し、国中で停電が頻発する。

2014/15年度での電力容量は合計2万4829メガワット(MW)。同年度中、675MWの電源(発電所)が増設された。パキスタンには発電する事業主が3者あり、①政府の水利電力省と②民営化されたカラチ電力③民間企業が独立して発電所を運営している独立発電事業者(IPP)――である。それぞれの電力容量は、水利電力省が1万2874MW(水力7013MW+火力5861MW)、カラチ電力が2422MW、IPPが8762MW(火力8678MW+水力84MW)。他に、パキスタン原子力エネルギー委員会が運営する原子力発電所(665MW)がある。

2014/15年度中は平均して5000MWほど電力が足りなかった。2014年7月には7000MWもの需給ギャップが発生した。発電可能な電力容量が1万4400MWであるのに対し、需要は平均1万8400MWであるため、高い頻度で停電が発生した。

2015/16年度は1027MWの電源が追加され、全体容量は4~5%増加する見通し。特にニールムジェルム発電所(969MW)が稼動する効果が大きい。原油価格の下落により、発電コストが抑えられる点も、電力不足解消へ追い風となろう。

また、政府が推進する中国パキスタン経済回廊(CPEC)プロジェクトによって、もし中国が融資協力する発電所の開発が順調に行けば、2018年までに1万400MWの電源が追加される予定だ。ただし、パキスタンでは計画通りにプロジェクトは進まないのが常であるため、過度な期待は出来ない。

◆LNG輸入とパイプライン計画が続々

電力の他、ガスの動向も注視したい。石油天然資源省が昨年12月にカタールと締結したLNGの売買契約(価格交渉中)により、2030年まで年間150万トンのLNG(183万TOE)が供給される予定だ。2015年3月からスイ南ガス公社とエングロ・エレンジー・ターミナル社はLNGターミナルのサービスを開始。年間取扱量は300万トン(366万TOE)で、600万トンまでの拡張が可能だという。

同じく昨年12月13日に起工式が行われたTAPI(トルクメニスタン=アフガニスタン=パキスタン=インド)パイプラインという、アジア開発銀行がイニシアチブをとるプロジェクトがある。これが2019年に無事開通すれば、トルクメニスタンのガス田から、年間330億立方メートル(2970万TOE)がパキスタンやインドに供給される。

また、イランへの制裁解除に伴い、パキスタン政府は急速に同国に接近しており、かつて頓挫したイラン=パキスタン・パイプライン敷設計画や、同国からの電力輸入について意欲を示している。

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