п»ї クリスマスに処女降誕か? コモドドラゴン『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第5回 | ニュース屋台村

クリスマスに処女降誕か? コモドドラゴン
『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第5回

8月 01日 2014年 文化

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SurroundedByDike(サラウンディッド・バイ・ダイク)

勤務、研修を含め米英滞在17年におよぶ帰国子女ならぬ帰国団塊ど真ん中。銀行定年退職後、外資系法務、広報を経て現在証券会社で英文広報、社員の英語研修を手伝う。休日はせめて足腰だけはと、ジム通いと丹沢、奥多摩の低山登山を心掛ける。

「Virgin Birth Expected at Christmas — By Komodo Dragon」(National Geograph-ic.Com/News、2006年12月6日)。8年前、私はこの記事に出合ってから約半年後の2007年5月、インドネシアの離島に向かった。バリ島近くに1泊ののちプロペラ機でフローレンスという島まで飛び、その港から漁船で向かったのはリンチャイ島。そこはコモド島とならびコモドトカゲの生息地として知られる場所。この島を選んだのはコモド島よりも短時間の3時間ほどの乗船で着けること、そして何より捕獲、管理された環境ではなく自然に生息している稀有(けう)な場所と知ってのことである。

◆種族保存のために繰り出す雌の奥の手

まずは、その記事の要約を以下に掲げる。

“このクリスマスに合わせて、場所は馬小屋とはいかないがイギリスのイングランド中部、チェスター動物園で処女降誕が実現する見通し。卵のDNAテストの結果、カトリック教義での無原罪の宿り(Immaculate Conception)が起きたというのである。当該記事の日付から2週間ほどで孵化(ふか)する見通し。”

ここで、この記事だけではなぜDNAテストに至ったのか経緯が不明なので、他の媒体が伝えた内容を補記する。実は複数のメディアがこの事件(?)を記事にしていたのである。

当該動物園の脊椎(せきつい)動物飼育担当員がある日、フローラと名付けられた雌の大トカゲの檻のなかでうっかり卵のひとつを足で踏んでしまい、驚愕(きょうがく)の事実を目にする。つぶれた卵から胚胎(はいたい)がのぞいていたのである。この大トカゲは、いかなる雄とも性的接触が可能な環境には置かれていなかったにもかかわらず、である。

もとの「National Geographic News」にもどる。

“飼育員はおどけていう。「次に、羊飼いと聖職者そして尋常ではない明るい星空がそろうのを待っている」と。雄が介在しない生殖のことを「単為(たんい)生殖」とか「処女生殖」(parthenogenesis)と呼ばれているが、これは雄との遭遇が極めて難しい状況に置かれた雌が種族保存のために繰り出す奥の手のようである。

これまで魚類、昆虫などの単純な生物を除くと、ヘビなど他の爬虫(はちゅう)類、あるいは両生類においてわずかに実例が知られているだけで、コモドドラゴン(コモド大トカゲ)では初めての例という。

研究者によれば、脊椎動物など高度な生物ではせいぜい全体の種の0.1%程度においてしかみられないという。ましてや、この大トカゲのように食物連鎖の最高位に君臨させる超高度なスキルに恵まれた複雑、高度な生物にこの単為生殖能力が備わっていた事実は意外な発見という。

この生殖は母親の2組の染色体をもとに、無精卵から胚体をつくりあげることにより可能になる。そして、この無精卵から生まれる子供はすべて雄である。次には母子の超近親交配によって子孫をつなぐのであるが、種が絶えてしまうことに比べればまだ合理性があるということであろうか。

記事の最後に、哺乳類においては事例なく、ましてや”バージンメリー(聖母マリア)”がいかにして可能になったかに関して何らの科学的な解明の糸口を与えるものではない、と締めくくっている。

◆究極の効率性を有するハンター

ところで、この記事に触発された私は「大探検旅行」の挙行を前に、少しだけこの驚異のトカゲについて事前学習した。

コモドドラゴンは、捕食動物としてのあらゆる最高能力を備えている。短い距離であろうが、俊足で狙われたら人間の足では逃げ切れない。木登り、水泳はお手のもの。つまり餌と目をつけられたらお手上げである。

極めつけは、狩りの手口である。ライオンのように襲い、格闘して仕留めるわけではない。ひと?(か)みしてその場を去り、あとはその唾液(だえき)に含まれる強い毒性のバクテリアが獲物の体内をめぐり、1週間程度で死に至らしめる。

彼らにとり、死屍(しし)臭は風下であれば4キロ離れても触知可能という。満を持して餌にありつくのだ。エネルギーを浪費せず、リスクを取ることなく生きてゆく、究極の効率性を有するハンターである。ちなみに最大の雄は体長3m、重さ160キロを超えるという。

◆3時間歩き回って見つけた大トカゲの正体

さて、私の旅行記に戻る。島までの貸し切りの船の旅は、首筋に痛さを感じさせる強烈な日差しを受け、真っ青で穏やかな海を単調に進むだけであった。素朴な雰囲気の初老の船長、若いヘルパー2人に途上、甲板でコンロを使い焼き魚(カツオに似た味の、アジのような見かけの)の昼食をふるまわれた。

まもなく実現する、旅の本題であるコモドトカゲとの劇的な遭遇の瞬間にむけて気持ちを盛り上げるべく彼らにトカゲの話を投げかけるのであるが、トカゲはこれくらい大きい、とそのうちの2人が手を片方ずつ挙げて両端を示すだけで、それ以上に話を発展させるには英語がほとんど通じない。

島に到着後は、先端がYの字に分かれた棒を持つ公園のレンジャー2人に先導され灼熱(しゃくねつ)の太陽の下、3時間弱の島内徒歩ツアーに参加。参加者は我々夫婦のみであった。

レンジャーの2人は年こそ若いが私とあまり変わらない小柄な体つきで、間に合わせの棒きれ1本で我々4人を獰猛(どうもう)なトカゲの攻撃から防ぎきれるのか、まことに不安であった。

島は極度に乾燥した気候であり、低い灌木(かんぼく)に覆われ、乾いた地面を息をひそめて歩いた。途中、道端の数カ所で白い粉状の堆積(たいせき)物を見たが、水牛を骨ごと食べたトカゲの糞(ふん)だと説明され、いよいよと、期待を膨らませた。

突然、あっちだ、と示される方向を見ても、周囲の木や土の色と同化しているのか、なかなか自分の目で見つけられない。ツアーの最終地点近くに到達してやっと数頭現われるのを目撃。ただし、テレビや雑誌で見た精悍(せいかん)なハンターの風貌(ふうぼう)ではなく、木陰に思いきり脱力し、材木みたいに死んだように寝そべる彼らのスリムな姿が現実であった。

それが私のその大旅行の成果であった。数頭ずつ集まり、レンジャーの事務所を中心にして集まって生息しており、餌やりをしているのかと聞いたところ、レンジャーは否定した。あくまで自力での餌確保で生きているという。

私の不満げな顔の表情をくみ取ったか、手の棒でドラゴンの体を突いて挑発してみるのであるが、わずかに反応するもののこちらに向かって突進するような気概、そぶりをみせることはなかった。無駄な労力による体力消費を避ける至極合理的な行動である。

安直に好奇心に駆られ、日本からはるばると飛行機を乗り換え、訪れる物好きにいちいち付き合えないのだろう。しかし、そうは自嘲しながらも、めったに見られない動物をありのままのすばらしい生息環境で見ることができたのは、この上ない感動体験であった。

帰路、船を止めシュノーケリングを楽しんだ。実にきれいな海で、無数の熱帯魚の群れが体にぶつかり通り過ぎる体験をした。

※今回紹介した英文記事へのリンク
http://news.nationalgeographic.com/news/2006/12/061220-virgin-dragons.html

インドネシアのリンチャイ島=どれも筆者撮影

 

リンチャイ島で遭遇したコモドトカゲ

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