п»ї パキスタン駐在の魅力とは『夜明け前のパキスタンから』第5回 | ニュース屋台村

パキスタン駐在の魅力とは
『夜明け前のパキスタンから』第5回

8月 14日 2015年 国際

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北見 創(きたみ・そう)

日本貿易振興機構(ジェトロ)カラチ事務所に勤務。ジェトロに入構後、海外調査部アジア大洋州課、大阪本部ビジネス情報サービス課を経て、2015年1月からパキスタン駐在。

日本企業のパキスタン進出が進まない要因の一つに、「駐在員を置くなどトンでもない国」というネガティブな印象があるように思える。しかし、最大都市カラチの駐在員の中には、滞在延長を希望するほど気に入ってしまう人もいる。そうした魅力はどこにあるのだろうか。

◆パキスタン駐在は不幸?

先日お会いしたお客様から、「パキスタンに駐在員を置くよう本社に打診したが、どうにも前向きでない」というお話を聞かせていただいた。パキスタンは危険地という印象が強く、なかなか赴任可能な社員が見つからないようだ。

以前、ベトナム・ホーチミンへ進出した中小企業A社に聞いたところ、「フィリピンとどちらにするか迷っていたけど、最後は治安のいいベトナムに(進出を)決めたよ。大切な社員を出すんだからね」と社長は語った。一方、フィリピン・セブへ進出したB社に話を聞くと、「社員がすすんで行きたがる場所が一番いいと思って、セブにしたんだよ」と言う。

いくら市場があろうと、日本企業は治安の悪い国に社員を送りたがらない。その経済規模、潜在性の割に、日本企業のパキスタン進出が遅々として進まないのは、この辺りが原因となっているのかもしれない。

筆者も「初めての赴任地がパキスタンとは大変ですね」と慰められることが多い。しかし、カラチの日本人駐在員にの中には、「ずっとカラチ駐在でいい」「駐在期間を延長してもらった」という人もいる(注1)。その魅力は一体、どこに隠れているのだろうか。

◆84万円の暮らしが5万円弱に

第一に、仕事面で面白いというのは多くの駐在員に共通するところだろう。パキスタンは利益が出ている日系企業が多い上、未開拓な市場が残されており、フロンティア最前線である。やることはいくらでもあるし、やれば結果がでる。また、ハードシップ手当もわかりやすいインセンティブだ。

仕事以外の生活面での魅力として、食材や人件費の安さが挙げられる。ナンが1枚10円(注2)。現地食で良ければチキンカレー、ナン、ドリンクの3点セットで100円を切ることも十分可能だ。野菜はビニール1袋分を買っても30~60円。ミネラルウォーターは18.5リットルで約200円。絞めたばかりの鶏肉や牛肉は1キロで500円前後。エビは少し高級で1キロあたり1200円である。

人件費については、日本食が作れるコック(週6日勤務)が月額2万円ほどで雇える。日本で雇おうとすれば30万円なので、15分の1である。運転手も同じ程度の金額で雇える。掃除、洗濯するメイドは1日3時間前後のパートタイムで、週6日間来てもらっても月額5000~8000円である。日本で同じだけ家事代行すると24万円はかかるだろう。日本で月に84万円かかる暮らしが、たったの5万円弱で享受できる。

娯楽では、ゴルフのプレー料金が安く、駐在員の楽しみの一つになっている。カラチにはゴルフコースが4カ所ある。1ラウンド2400円でプレーすることができ、キャディーは1人あたり400~600円で付いてまわってくれる。打ちっぱなし料金も安く、50球あたり120円である。なお、パキスタン人のプロによるレッスンは、1時間あたり600円で指導してくれる。

テニスコートも安い。1人あたり1時間で240円である。東京で1面借りた場合の料金が1時間あたり3000円とすれば、4人でプレーしたとしても、3分の1の値段となる。

ただし、高いモノ、サービスも多々ある点は断っておきたい。電気料金は日本よりも高く、単身で節約しても月1.5万~2万円はかかる。生活用水は、公共の給水がない場合があり、タンカー・マフィアと呼ばれる水業者から月に数回、5000~6000円を払って購入する必要がある。頻繁に停電する夏場は、発電にかかる燃料代も馬鹿にならない。輸入品は高く、日本では100円均一で売っているようなプラスチック製品も、500~1000円かけて買わなければならない。

◆日本人同士の交流も多い

教育面では、カラチには日本人学校があり、日本から教師が派遣されている。児童の数が少ないこともあって、丁寧な指導を受けることができる。異文化理解が進むのはもちろんのこと、ウミガメの産卵の観察、サトウキビ栽培といった日本ではなかなか体験できないプログラムが用意されている。

なお、カラチの日本人会は、駐在員を中心に152人・105世帯が会員となっている。単身が84世帯、家族帯同が21世帯だ。日本人同士の交流は多く、集まってスポーツをしたり歓送迎会をしたりするなど、和気あいあいとしている。

今のところ、日本におけるパキスタン駐在のイメージは「沈まぬ太陽の主人公が懲罰人事で飛ばされた国」「テロで毎日沢山の人が死ぬ国」といったような、最低に近い印象であることだろう。しかし、実際に暮らしている人たちの声を聞いてみると、決して悪い話ばかりではないはずだ。

もちろん、日本人にとってのタイやマレーシアのような生活水準には当分達しないだろうが、インド、バングラデシュのような「生活は少し大変そうだけど、最前線で頑張ろうかな」と思える程度へ、パキスタンの印象が変わっていくことを願っている。

(注1)もちろん、途上国であることに加えて、外を自由に出歩けずストレスのかかる生活が続くため、早期の帰国を希望する駐在員もいる。

(注2)わかりやすくするため、本稿では円建て(1ルピー=1.2円換算)で表記する。

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