北見 創(きたみ・そう)
日本貿易振興機構(ジェトロ)カラチ事務所に勤務。ジェトロに入構後、海外調査部アジア大洋州課、大阪本部ビジネス情報サービス課を経て、2015年1月からパキスタン駐在。
パキスタンへの出張を検討しても、安全面で断念してしまう企業が多い。同国に関する情報が少ないことが渡航のハードルになっている。今回は出張する際の基礎情報と、どういった点に留意すればよいのかを紹介したい。
◆凶悪事件はないが油断は禁物
最近のパキスタン国外の日本企業からのお問い合わせでは、「最近のパキスタンの治安情勢はどうか」「他社は出張禁止にしてはいないか。安全対策はどうしているか」といった質問が多い。やはり市場としてのパキスタンに商機を見いだしているものの、出張に関しての了解が得難いということだろう。
最大都市であるカラチではここ数か月の間、治安が良くなっているという確たる証拠はないが、2014年のカラチ空港襲撃や、ペシャワルでの航空機に対する銃撃、学校への襲撃といった大きな事件がないため、やや改善しているという印象を持つ人も少なくないようだ。
巷(ちまた)では、政府が行った北ワジリスタンでのテロ組織掃討作戦「ザルベ・アズブ」(預言者の剣による打撃)や、銃火器を多数所持していた野党統一民族運動(MQM)本部に対する査察などによる効果が表れ始めている、と話すパキスタン人も多い。しかし、武装勢力がテロを計画しているという情報も入っており、凶悪な事件は忘れた頃に起こるのが常であるため、油断はできない。
◆フライトとホテルについて
パキスタンは『地球の歩き方』が2008年以降、更新されていないような状況であるため、最新の情報に乏しく、ツテのない日本企業にとっては出張自体のハードルが高いと予想される。そこで、どのようにして渡航したらよいのかを紹介したい。もちろん、パキスタンには大手総合商社や自動車メーカーが拠点を設けているため、ツテがあれば頼った方がベターである。
まず、フライトだが、カラチ空港へ向かう便に関しては、タイ航空か、エミレーツ航空の2択となっているので、好きな方を予約すればよいだろう。パキスタン人の間ではスリランカ航空の人気も高い。値段は安いが、コロンボでの滞在時間が長いため、仕事には不向きだろう。
キャセイ航空では香港とドバイ(またはカタール)で2回乗り継ぐ便を扱っており、これは他社のエコノミークラスとほぼ同じ料金でビジネスクラスに乗れるため、ゆったりしたい人にはおすすめだ。同ルートではエコノミークラスはなぜか利用できない。
ホテルは、日本人出張者がよく利用するのはアバリ・タワーズ、パールコンチネンタルホテルの二つである。両ホテルには日本食レストランもある。ホテルのピックアップがあるので、空港からホテルまでは同サービスを利用してもよい。他に旧シェラトンのモーベンピックホテルもある。マリオットホテルは米系ということもあり、テロの標的になりやすい。空港近くのラマダホテルも値段が安いため人気があるが、市内までのアクセスは良くない。
◆市内移動には警備員を
移動手段については、運転手付きのレンタカーを使うのが一般的だ。タクシー、オート三輪に乗るのは避けたい。安全対策上、車高の高い車(トヨタのプラードなど)を借りると安心だ。カラチの銃強盗は2人乗りのバイクに乗って、渋滞や信号で止まっている車に対して銃を突き付けて、金品を奪う。車高が高いと狙いにくいという寸法だ。プラードは1日借りると1万パキスタン・ルピー(1パキスタン・ルピーは約1.2円)前後で、カローラは3500ルピー前後が相場となっている。
出張先がカラチである場合、市内の治安が悪いため、銃を携行した警備員の同行を考えた方がよいだろう(ラホール、イスラマバードの場合は不要)。警備員は1日あたり3000ルピー前後で雇用することができる。日本人駐在員や現地人スタッフの間でも、警備員をつけていない自動車が狙われており、金品を脅し取られている。他に軍や警察、政府関連施設、モスクなどの宗教施設、欧米関連施設は可能な限り避けたい。
レンタカー会社や警備会社については、ジェトロに問い合わせてもらえればリストを提供しているほか、宿泊を予定しているホテルに頼んでもいいだろう。取引先のパキスタン人は「大げさである。安全上の問題は全くない」というかもしれないが、日本人とは感覚が異なるため、出来るだけの対策を行いたい。また、在パキスタン日本大使館、カラチ総領事館の安全情報は渡航前に必ずチェックしたい。
◆競合も少ない未開拓市場
その他、食あたりに気をつけるのは他のアジア諸国と同様である。また、アルコール飲料はレストランでは提供されておらず、海外からの持ち込みは空港で見つかった場合は没収されてしまう(帰国時に返却される)。女性の場合、露出の少ない服にしておきたいが、カラチは都会であるため、女性もスカーフをつけずに街を歩いており、顔を隠す必要はない。
このように制約が多く、情報の少ないパキスタンではあるが、それだけに競合も少ない未開拓市場であると言える。また、渡航をためらう企業が多いのは事実だが、それだけに、訪問するだけでグッと客先の印象があがる。
日本人駐在員のA氏は「なかには技術援助契約を結んでいるにもかかわらず、現地にほとんど来ずにロイヤルティだけ取る日本企業もある。それでは信頼を失うのも仕方がないだろう」と話す。むやみに渡航をすすめるものではないが、万全の対策を講じた上での出張は、実りの多いものになるはずだ。
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