国際派会計士X
オーストラリア及び香港で大手国際会計事務所のパートナーを30年近く務めたあと2014年に引退し、今はタイ及び日本を中心に生活。オーストラリア勅許会計士。
◆ジャッキー・ロビンソンの逸話
最近機内映画で、日本でも数年前に上映された「42~世界を変えた男」を興味深く見ました。黒人初のメージャーリーガーであるジャッキー・ロビンソン(Jackie Robinson)の伝記を綴(つづ)った、野球ファンでなくても感動する映画でした。
第2次世界大戦後間もなく、黒人はニグロリーグでしかプレーできなかった時代に、ハリソン・フォード演じるブルックリン・ドジャース球団トップに誘われて、ドジャース(今のロサンゼルスではなく当時はニューヨークが本拠地)に内野手として入ったロビンソン。彼が人種差別の壁からチーム内外からの偏見を乗り越えて頭角を現し、新人王などの実績を上げるとともに少しずつチームメートの信頼を勝ち得ていき続け、最後は野球殿堂入りも果たしパイオニアとして未来を築いた半生を描いた映画です。
グラウンド内ではビーンボールを受けたりスパイクで足を踏みつけられたり、ゲーム後のシャワーもチームメートとは一緒に浴びることができなかったりと、嫌がらせや誹謗(ひぼう)は初め過酷とも言えるものでした。しかし、球団トップの期待、妻の愛、チームメートとの友情は彼の忍耐を支える一因だったと思います。
彼の偉業をたたえて、彼がデビューした日として知られる4月15日には毎年メージャーリーグの全選手が、背番号「42」をつけてプレーするというロビンソン・デーが恒例となっています。
野球選手としての彼の優れていた点、つまり核となる特性は走力含めて類い稀(まれ)な運動能力があったと聞いています(ちなみに彼の兄は200メートル走で銀メダルを取ったオリンピック選手でした)。
◆コア・コンピタンスとシャープ
1995年に出されたゲイリー・ハメルとC.K.プラハラードによる『コア・コンピタンス経営―未来への競争戦略』(一條和生訳、日本経済新聞社)で日本企業シャープの小型高解像度ディスプレーを、世界的な主導権をとる「コア・コンピタンス」(顧客に対して、他社にはまねのできない自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な力)と紹介しています。シャープはこの技術をベースに薄型テレビなどで市場の主導権を握りましたが、それに注力するあまり次第に輝きを失い、今に至ったのではないかと思います。
台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が経営再建中のシャープの買収を決めたというニュースが飛び込んできました。外資である台湾の革新的な企業が日本を代表する製造業の再建に取り組むというのは、外資に対して閉ざされているとよく言われる日本の経済界にとっては未来を創(つく)っていくためには困難ながら越えなければならない大きな変化ではないかと思います。
筆者は香港駐在時の2000年代初頭に、中国広東省の深?(シンセン)にあるホンハイの基幹工場(中国では日本企業と間違うような「富士康」という企業名)を外から見て、その規模には驚かされたことを記憶しています。さらに成長を続け、世界一の電子機器受託生産企業(EMS)となったホンハイが、今回のシャープ買収劇の主役になろうとは思っていませんでした。
親日的と言える台湾の主要企業でマーケットや顧客のニーズに適切かつダイナミックに、そしてタイムリーに適合してコア・コンピタンスを見失わずに売上高10兆円超の企業に成長させたDNAがホンハイにはあると思います。ホンハイと共にコア・コンピタンスがあり優れた企業の一つだったシャープの真の再生が行われることを心より期待します。
そのためには、ジャッキー・ロビンソンの逸話のように、シャープの皆さんが今までの慣習や常識にとらわれず多様性を受け入れ、それを強みとしながら変革を恐れず、ホンハイと共に新しい未来を創っていってほしいと願っています。
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