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憲法改正 国民投票は東京五輪の前か? 賛否占う 来年夏の参院選
『山田厚史の地球は丸くない』第125回

10月 05日 2018年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

自民党総裁選で安倍晋三首相が「あと3年の任期」を手に入れ、政界で「改憲スケジュール」が取りざたされるようになった。

「3年かけて社会保障改革とか言ってますが、本気とは思えません。安倍さんの関心は憲法改正一本です」

自民党の国会議員が言う。2021年9月まで3年の「任期」がある首相が、どの時点で国民投票に打って出るか。それから逆算して政局は動く、というのだ。

来年は、春に統一地方選挙がある。7月ごろ参議院選挙が予定され、10月に消費税が10%に上がる。4月で平成が終わり、新天皇が即位。20年の夏には東京五輪が開催される。五輪が終われば、残り1年の政権への求心力は低下するだろう。

◆「首相が功を焦ると失敗する」

「国民投票は、来年末から再来年の春までの間。平成が終わる一大イベントとして行われるのではないか」

そんな観測が広がっている。

首相は10月3日、自民党憲法改正推進本部顧問の高村正彦党副総裁と会い、秋の臨時国会で憲法改正の趣旨説明をすることで合意した。首相は「改正案の提出」まで踏み込みたい意向と伝えられていたが、慎重になったようだ。高村氏は、党内の議論が煮詰まっていないことや、公明党への配慮から、慎重に手順を踏むことを進言した、と見られる。

だが安倍首相は、のんびり構えてはいられない。年を越せば統一地方選挙へのムードが高まり、憲法改正論議は棚上げされかねない。明確な「やる気」を天下に示し、改憲ムードをつくり出す必要がある。東京五輪の前に改憲を成就するなら、勝負どころは、統一地方選挙から参議院選挙の前後にかけての半年だろう。そこで国会発議ができれば、20年春まで間に合う。

有権者は憲法改正への関心は高いとは言えない。政策の優先順位も、経済政策、年金・介護、保育・教育といった「暮らし」に関心は集中し、政策として憲法改正は関心の外と言える。「改憲が本当にできるか」は政界でも、悲観論と楽観論が入り混じっている。

自民党にとっての「悲観論」(護憲派の楽観論)は「立て込んだ政治日程を縫って、国民の合意を取り付けるのは極めて難しい。憲法審査会で十分な議論に入れていない現状で、自民党をまとめ、公明党の了解を取り、国民の理解を得るには時間がかかる」 というものだ。総裁選で首相の改憲論を正面から批判した石破茂氏が善戦した。地方票の45%を確保した実績は、強引な安倍政治への草の根からの反発と党内でも見られている。「首相が功を焦ると失敗する」という自民党議員は少なくない。

◆二つの関門

野党議員の間には「今の安倍体制で改憲を推し進めるのは無理がある」という見方は少なくない。

「改憲は与野党の納得ずくで進めよう、という合意がある。憲法審査会で議論を尽くし衆参両院で3分の2の賛成が必要だ。現状はそんなムードにほど遠い。国民投票法案の改正をこれから審議しようというのに、一足飛びに改憲項目の審議などとんでもない。与党が力ずくで通せば、国民だって黙っていないだろう」

国民民主党の国会議員はそう語る。首相にとって関門が多いのは確かだ。第一関門は自民党内の合意である。総務会で「全員一致」がないと国会審議に上げることはできないのが自民党の習わしだ。

9条改正は、「交戦権を認めない」とする2項を改めない限り、自衛隊は海外で活動できない、というのが石破氏らの主張である。2項に手を付けるのは世論を刺激する、として無難な「自衛隊書き込み」を主張する安倍首相と決定的な溝がある。

内閣改造と併せて行われた自民党人事で、総務会長に厚生労働相だった加藤勝信氏が充てられた。総務会で噴き出す反対論を抑え込むことが期待されているが、元大蔵官僚の能吏が紛糾する議論を取りまとめることができるだろうか。

次の関門は公明党だ。「平和の党」を売り物にし、支持母体である創価学会には「9条改憲」に反対する人は少なくない。これまでも安倍政権に従ってきたが、山口代表は総裁選の翌日「公明党とだけ調整を先行し、それから(改憲案を)出すことは我々としては考えていない」と、出だしから自民党と組んで憲法改正の提案側に回ることに慎重な姿勢を見せた。

◆盲点は「テレビCMのやり放題」

立憲民主党は「国民投票法案の審議が先だ。これだけやっても来年の夏までかかる」(枝野代表)と主張している。ここは重要なポイントである。

国会が改憲を発議したら「60日以上、180日以内に国民投票を行う」と08年に成立した国民投票法で決まった。国民投票は公職選挙法による通常の選挙と異なり、賛否の訴えは自由。戸別訪問やチラシの各戸配布に制限がない。「表現の自由」が尊重され「規制のない運動」が謳(うた)われている。その「盲点」とされるのが「テレビCMのやり放題」である。

投票日の2週間前からテレビCMは禁止されるが、それまではアメリカも大統領選挙のように無制限に流していい。

資金力がある政党や団体はカネにあかしてバンバンが流せる。財界や各種業界、宗教団体が背後にいる政権側に有利になるのは目に見えている。そして自民党には電通が付いている。2020年の東京五輪でも電通は政府と一体でイベントや宣伝活動を内外で行う。放送局やプロダクションに影響力を持つ電通は、CM枠を握り、ゴールデンアワーを押さえ、好感度の高いタレントを起用することができる。

国会の発議や投票日の設定など国民投票のスケジュール情報は政権が握っている。それに合わせ前もってCM枠を押さえる、という芸当も政権側ならできる。

こうした「国民投票の盲点」は広告業界や民放の関係者から指摘され、投票呼びかけの公平性を保つためには、放送局は賛否CMをバランスを取って放映するべきだ、という声が上がっていた。

ところが民放の業界団体である民放連は9月の理事会で「国民投票CMの自主規制しない」との方針を打ち出した。表現の自由を確保するため「CMの量的規制はしない」というのである。

民放連の会長は日本テレビの大久保好男社長。6月に就任した。大久保氏は読売新聞で政治部記者を務め、自民党では清和会(小泉・安倍の派閥)を担当、安倍政権が誕生した時は政治部長だった。安倍首相と食事を共にする間柄である。読売グループは新聞・テレビを通じて憲法改正を応援している。

新聞業界では読売新聞グループ東京本社社長の白石興ニ郎氏が新聞協会長を務めている。大久保・白石の両氏とも読売新聞政治部の頃から渡邊恒雄同代取締役主筆の部下だった。

◆野党が憲法改正反対で一つになれるか

こうした状況の下で、野党や憲法改正に反対する学者などの間には「安倍政権は憲法改正を必ず仕掛けて来る」という受け止め方が強まっている。

「自民党の政治家にとって権力は接着剤。政権を失うことだけは避けたい、という強い結束力が働き、異なる意見も最後には黙る。公明党も同じ。安保法制やカジノ法案でも、抵抗するそぶりを見せながら最後は自民党に同調する。与党のうまみを知って離れられない。政権内部の異論などに期待してはいけない」

憲法学者である小林節慶応大学名誉教授は楽観論を戒める。

立憲民主党でも「政治日程は立て込んでいるが来年1月から始まる通常国会で改正案を提案し、衆参両院で3分の2を確保している今の国会で発議する可能性がある」という見方が浮上している。

改憲の賛否に決定的に重要なのは来年の夏の参議院選挙だ。安倍政権にとって「与党3分の2議席確保」が改憲の絶対条件となる。勝敗を分けるのは一人区をどちらが取るかである。野党は候補者を一本化できるか、が焦点となる。そこを崩そうと衆参同日選挙を安倍首相は打って出る可能性もある。バラバラな野党が憲法改正反対で一つになれるか。これから1年足らずが勝負どころとなりそうだ。

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