佐藤剛己(さとう・つよき)
企業買収や提携時の相手先デューデリジェンス、深掘りのビジネス情報、政治リスク分析などを提供するHummingbird Advisories 代表。シンガポールと東京を拠点にアセアン、オセアニアと日本をカバーする。グローバルの同業者50か国400社・個人が会員の米国Intellenet日本代表。新聞記者として9年、米調査系コンサルティング会社で11年働いた後、起業。
また投資詐欺に遭った。といっても筆者が投資詐欺に引っかかったというのではなく、引っかかってしまった方(企業)が顧客になったという話である。詐欺の規模は小さく、内容的にも新聞ベタ記事にもならない。それでも被害総額は億の単位を下らない。外国、ことにアセアンという地の利をうまく「悪用」する日本人が大勢いて、同じ日本人でも新参者をカモにするのである。直接当事者の話を聞くと詐欺に遭うとは何と悲惨なことか、と改めて思い知る。
◆あの手この手の投資話
今回の仕組みは簡単だ。主宰者が日本の個人投資家からお金を集める。名目はある種の社会貢献。これをシンガポール組成の別名のファンドとして、ヘッジファンドに運用を委託するのである。利回りの一定額を社会貢献組織に拠出し、投資家も相応の上積みを得る。今回筆者が会った投資家も、言ってみればただの人たち。特段富裕層という感じでもない。
「助けて上げてほしい」と、シンガポールの弁護士から引き合わされた時は、必死の形相だった。「なけなしのお金なんです。戻ってこないと半年で手持ち現金が底を突き、職を探さないといけない」と、筆者の手を握りしめてきた。
聞けば、ファンドは2年はうまく回り配当も出ていた。が、昨年末から雲行きが怪しくなり、投資家同士で確かめたらシンガポールのファンド会社は閉鎖。メールのIPアドレスから日本にいるらしい、ということは分かったが、主宰者の正確な居場所は分からないまま、というのだ。日本の自宅はすでに誰かが押さえている。
この主宰者、実は投資を募り始めた時点からかなり素性の怪しさが臭っていた。インターネット上には、あの手この手の投資話(フィランソロフィー、森林保護、女性地位向上など)に幾つも登場する。垣間見える経歴からも、金融知識に詳しいわけでもないことがおぼろげながら見えてくる。
結果は本欄では伏せる。問題は個人投資家たちが、どうしてこんな人物に、確認作業を十分にしないまま、人生の後半を左右しかねない自己資金を投資したか、ということだ。小1時間でもコンピューターに向かって情報を集めれば、だいたい分かりそうなのに、である。
そう思っていた矢先に、今度はタイの知人から連絡があった。「タイで日本人の投資詐欺に遭った。取り返す方法はないか」。しかも、詐欺をはたらいた方はのうのうとバンコクで暮しているそうだ。首謀者が被害者と同じ日なたを歩けるほど、投資詐欺は“おいしい”のか。
クロスボーダーの詐欺となると、合法的にできる範囲は極めて限られる。似たような事案で集団訴訟に持ち込み、被害金の約7割を加害者から回収できた東京の弁護士事務所がある。相談に訪れる人は、すでに社会人をリタイアしたと思われる初老の方。そうした被害者の救済に奔走された先生方には、ただただ感服するばかりだ。
◆浮かび上がる「善管注意義務不足」
投資詐欺は、何も個人ばかりではない。
年初に東京・二重橋の東京商工会議所に行く機会があった。筆者は、海外進出企業のお手伝いが少しでもできれば、との思いでの飛び込み営業。通されたのは約100平方メートルくらいの海外展開支援相談窓口で、同じ部屋にはすでに何組かがアドバイザーの方々に相談をされていた。
「インドネシアのこの口座にお金を振り込んだのですが、モノが届かない。銀行に確認したらもう口座は閉じているといわれた。どうなっているんでしょう」「フィリピンの業者に資材を送っていたら、突然支払いが止まった。支払いが滞ると生産を続けられません」。そう訴える中小企業の経営者と思しき方々の顔は切羽詰まっていた。見ているだけで、こちらもいたたまれなくなる。
それこそニュースをひもとけば、アセアンを舞台にした詐欺話は限りなく出てくる。今年4月には、ある日本企業の社長がベトナムの日本人男性から、そのベトナム人妻を紹介され、一緒にビジネスをしたものの投資金1億円近くを詐取された、という話もあった。
職業柄、この手の話を聞く機会が多いのだが、被害者(企業)の話を聞けばきくほど、「善管注意義務不足」が浮かび上がる。防ぐための基本動作は至って簡単。転ばぬ先の杖となる情報をインターネットから探せばいい。「インターネットなどはとっくに見ている」という反論を企業担当者からいただくことは多い。しかし、よく聞くと何を見たらいいか理解していないことが少なくない。
官民挙げて海外進出が言われるが、日系企業の足元はおぼつかない。言い過ぎだろうか。
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