п»ї 政治情勢に翻弄される共同体構築作業『ASEANのいまを読み解く』第7回 | ニュース屋台村

政治情勢に翻弄される共同体構築作業
『ASEANのいまを読み解く』第7回

3月 21日 2014年 国際

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助川成也(すけがわ・せいや)

中央大学経済研究所客員研究員。専門は ASEAN経済統合、自由貿易協定(FTA)。2013年10月までタイ駐在。同年12月に『ASEAN経済共同体と日本』(文眞堂)を出版した。

スリン前ASEAN(東南アジア諸国連合)事務総長は2013年1月の退任に際し「EU(欧州連合)はASEANの動機だが、地域体のモデルではない」と語るなど、ASEANはEUとは異なる独自の統合の道を歩んでいる。ASEANはあくまで「内政不干渉」の原則のもと、各国の主体性に配慮した統合を目指している。しかし、現下の加盟各国の政治情勢が、統合の足を引っ張りかねない状況になっている。

◆欧州債務危機で統合深化に気後れするASEAN

ASEANは加盟国の主体性を重んじ緩やかな統合体として運営されている。そのため、「地域的約束を実施する政治的意志」は、加盟各国にとってより重要である。市場統合について加盟各国からASEAN首脳会議や同事務局に主権の委譲が行われているわけではない。ASEAN内で決めた統合措置の実施は、あくまで加盟各国政府が法令化、行政指導を通じ、あくまで国内措置として実施する。

一方、地域統合の先駆けであるEUの場合、統合措置に関する権限はASEANに比べ強化されている。具体的には、EU規則の場合、加盟国の立法手続きを経ることなく直接的に加盟国に適用される。一方、EU指令の場合は、加盟国に対し所定の期間内に国内法の改正・整備を求めるなど、EUの権限はASEANに比べて強化されている。仮に、加盟各国がEUの基本条約に違反する行動をとった場合、EU政府とも言われる欧州委員会がEU条約違反で欧州裁判所に提訴することもあり、強制力を兼ね備えている。

ASEANがEUの統合と距離を置く理由に、内部に「行き過ぎた地域統合が欧州債務危機を深刻化させた」との見方がある。2008年のリーマン・ショックに端を発した金融危機は欧州にも飛び火、翌09年にギリシャで財政危機が顕在化、以降、南欧を中心に瞬く間に信用不安が拡散した。

EUはユーロ導入で単一金融政策を採った一方で、財政政策は各国に委ねられていたことから、財政規律が緩い一部加盟国でソブリン・リスク(国家の信用リスク)が顕在化、債務不履行(デフォルト)寸前になるなど欧州債務危機と呼ばれるまでに拡大した。経済統合深化のリスクの側面を目の当たりにしたASEANは、経済統合に向けた歩みは続けながらも、その歩み自体は一層慎重になっている。

◆政治情勢の流動化で遅延する統合作業

08年から進めているASEANの経済統合作業は第4コーナーを回ろうという重要な時期を迎えているが、シンガポールやマレーシア、カンボジアなどは選挙で政権与党が勝利したものの、大きく議席を減らした。その結果、国内支持基盤の不安定化から、より政策を内向きにシフトする加盟国が出ている。

マレーシアは、09年のナジブ首相就任後、サービス業27業種の自由化(ブミプトラ資本30%出資義務撤廃)などブミプトラ政策の改革に着手したものの、13年5月の総選挙で与党連合は議席数を減らし、過半数確保がやっとであった。同政権は支持基盤強化を狙い、事業開始資金の融資拡大や政府調達の優先的発注など新たなブミプトラ政策の導入を表明するなど、これまでの取り組みから逆行する動きを見せている。

カンボジアは1993年以降、フン・セン首相率いる人民党が圧倒的多数を占め政権を担ってきた。与党人民党は2013年7月の国民議会選挙(全123議席)で前評判では圧勝と言われてきたが、それまでの90議席から68議席へと大きく減らす一方、フン・セン長期政権による腐敗や格差是正などを訴えたサム・ランシー氏率いる野党救国党がそれまでの29議席から55議席へと躍進した。与党人民党は引き続き過半数の議席は保持しているものの、これまでASEANで最も政治的に安定していると言われてきたカンボジアの基盤が揺らいでいる。

また、タイ・インラック政権は海外逃亡中の兄タクシン元首相の帰国を強引に推し進めたことから、反政府デモが激化、窮地に立たされた同政権は下院解散・総選挙に打って出た。しかし、反政府デモ隊などの妨害により南部8県28選挙区で立候補者がないまま、2月2日の総選挙を強行した。しかし、国会召集に必要な議席数に足りず、下院議会が開けない異常事態が続いている。更に国家汚職防止委員会はインラック首相を、コメ担保融資制度を巡る職務怠慢と職権乱用で告発する方針を決定しており、予断を許さない状況が続いている。

選挙などを控え、身動きが取れなくなっている国もある。タイ・カンボジア間の国境紛争問題でその仲介役を果たすなど地域のリーダー的役割を担うインドネシアでは、今年4月に総選挙、続く7月に大統領選挙が行われる。総選挙を前に最大野党闘争民主党は今月に入り庶民派で圧倒的人気を誇るジャカルタ州ジョコ・ウィドド知事を大統領候補として指名、同氏の人気を総選挙での得票数につなげることを狙う。一方、ユドヨノ大統領は民主党の党首を務めるが、幹部の汚職発覚が続くなど退潮傾向にあり、リーダーシップを発揮出来ないでいる。

前述の通り、ASEANでの統合措置実施は、あくまで加盟各国政府が法令化、行政指導を通じ、あくまで国内措置として実施する。現在、複数の加盟国で政治情勢が流動化し、また保護主義的性格を帯び始めている。これら混とんとした政治情勢は、各国における統合措置実施の遅延に直結する。ASEAN経済統合はこれまで比較的順調に来たが、政治がその足を引っ張りかねない状態になるなど大きな試練に立たされている。

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