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新聞調査 安全保障関連法案「参議院審議中」における考察
新聞各紙の1面における占有率という視点から(下)
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第62回

11月 13日 2015年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆扱いは東京が突出

前回説明した1面におけるニュース編集の面積は以下の通りである。小数点2位以下は切り捨て(単位は平方センチメートル)
朝日 963.7
読売 1053.9
毎日 1096.0
産経 1407.3
東京 1112.8
そして、参議院の審議入りである7月27日(同日付新聞)から採決日(翌日付新聞)までの一面のニュース編集可能面積に対する安保関連法案の記事面積=占有率は以下の通りである。

調査結果一覧
■1面における安保関連記事の占有率(%)

日付 朝日 読売 毎日 産経 東京
7月27日 14.0
7月28日 39.1 15.6 17.6 44.5
7月29日 33.4 40.5
7月30日 29.8 45.9
7月31日 57.3 22 16.2  ―
8月1日
8月2日 21.2
8月3日 44.2
8月4日 32.1 46.9 84.5
8月5日 22.9 37.5
8月6日 33.3
8月7日 10.5
8月8日
8月9日 45.4
8月10日 9.6 16.6
8月11日
8月12日 17.8
8月13日 20.4 4.5
8月14日 20
8月15日
8月16日
8月18日
8月19日 25.4 19.7
8月20日 24.1
8月21日 60.6
8月22日
8月23日
8月24日 16.5 67.9
8月25日
8月26日
8月27日 50.2 13.9
8月28日
8月29日 18.8 14.6
8月30日 18.3
8月31日 47.3 36 100
9月1日 52.4 34.5
9月2日
9月3日 60.2 20.2
9月4日 29.6
9月5日 12.7 21.1
9月6日 51.4
9月7日 23.5 75.5
9月8日 15.4
9月9日 8.4 5 44.4
9月10日 38.8 32
9月11日
9月12日 19.7 38.7
9月13日
9月15日 57.3 14.6 56.1  ― 73.8
9月16日 62 16.1 66.9 59.8
9月17日 36.6 68.8 45.6 74.4
9月18日 84.5 67.5 83.4 75.5 83.5
9月19日 100 100 100 89.7 100
9月20日 88.3 79.5 83.5 69.1 100
掲載日数 18 11 19 6 33
掲載時の
平均占有率 47 38.3 41.3 54.1 45.3
※8月17日、9月14日は休刊日

◆賛成派と反対派

表で示されているように、1面での掲載日数が最多なのは、東京の33日で毎日19日、朝日18日と続き、産経は6日でしかない。平均占有率は朝日、東京は半分近くを占める。産経は「必要なニュース」として掲載していることから占有率は必然的に高くなった。すでに安全保障関連をめぐる議論の報道については、読売、産経の賛成派と朝日、毎日、東京の反対派の「2極化」は顕在化しており、特に最近では安倍首相自ら出演するテレビが日本テレビ系列とフジテレビ系列の二つの保守系報道もしくは保守系討論番組に限定されることと連動している状況である。

本調査の結果もその現象を裏打ちするものとなったが、前述のとおり最も伝えるべきニュースを集約する1面を舞台にして、安保法案が成立に向けた動きと成立の決定では、新聞各社は100%もしくはそれに近い占有率で報道したことは、問題の重要性を示している。その認識が共通であるのにもかかわらず参議院での審議中の出来事を1面に掲載しない姿勢は、やはり各社の方針によるものなのだろう。

日本の新聞各社は毎年8月、広島、長崎の原爆投下、終戦と「8月ジャーナリズム」と呼ばれる戦争の風化を防ぐ報道が繰り返される時期である。特に今年は戦後70年であり、安倍首相自らが談話を発表することをめぐり、「侵略」「おわび」の文言の取り扱いで揺れ、「戦後70年」の議論も今回の安全保障法案に結び付けて展開する例や、記事で明示していないものの明らかに法案反対の意思を示す企画記事なども見られる。

東京新聞は、ベテラン芸能人のインタビューや米軍兵士のルポなど多彩な手法で安保法案関連の記事を展開するのが特徴的であった。学生団体はじめ市民のデモの様子を写真とともに丁寧に報道しており、8月31日の国会前の大規模のデモは写真を1面トップの上段から掲載する異例の扱いだった。

◆暴走を食い止めよ

朝日、毎日も同様にデモの写真を要所で掲載してはいるが、安保法案への強い反対の意思を持って、「1面を作る」という意識では東京が最もそれが強く、色濃く反映していたといえよう。一方で賛成派の読売と産経は参議院の審議入りしてからも、1面では審議もデモもなかったような紙面に終始しているかのようで、それはやはり不自然な印象がある。信条はともかくとして、国民の関心が高いニュースであることは変わりなく、報道すべきものを積極的に無視しているとしか言いようがない。それが報道機関の役割なのか、議論しなければならない。

以上、簡単な統計をもとに各社の参議院審議における安保法案に関するスタンスを浮き彫りにしてきたが、今後も調査対象となった各社の安保法案に対するスタンスは今回の結果で示された数値が、ひとつの基準となるであろう。それは、安倍首相が率いる政策全般にも同様にあてはまる傾向があり、衆参で多数を占める自公政権の権力の暴走を食い止める機能をメディアが果たしていけるのかは、今回の数値を見る限り、心もとない印象があり、各社はその姿勢の変革が必要な時期であるような気がしてならない。

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