東洋ビジネスサービス
1977年よりタイを拠点として、日本の政府機関の後方支援に携わる。現在は民間企業への支援も展開、日本とタイの懸け橋として両国の発展に貢献することを使命としている。
今回はタイのヘッドハンティングに関するトラブルについてご紹介します。
働き者として重宝がられているタイ人従業員Aさんが、他社からお給料の4割アップをチラつかされて心が揺れているようです。ご相談にみえたK社長、「それなら給料を2割アップしたらどうだろうか」と思案顔です。さて、どうすればこのままAさんに働き続けてもらえるのでしょうか?
もしAさんのお給料を2割アップした場合、Aさんの同僚のBさんやCさんはどうなるのでしょうか?
「もちろん、BさんやCさんの給料は変わらないよ」とK社長。それは大変問題です。タイ人スタッフ同士は日本人と違って給与明細を見せ合うことも珍しくありません。Aさん1人だけの給与アップが歓迎されるわけはありません。
では、タイ人スタッフ全員について2割の昇給をするのでしょうか? そうなれば、会社にとっても大きな負担となります。さてどうしましょうか。この会社は徹夜で給与規定を変更して、Aさんを引き止め、他の従業員からも文句が出ない形でなんとか収拾できました。
◆給与規定、就業規則はきちんと整備されているか
このような事態になる前にまず一番大切なのは、それぞれのケースごとに対応するのではなく、どの社員にも公平で透明性の高い仕組みを作ることが必要です。具体的には、最初のタイ人の雇用の時点で、事前に適切な給与規定、就業規則を作成することが大変重要となっています。
タイの労働法はそもそも、労働者の方に有利なものとなっています。様々な労働法規の中で、基本となるのは労働者保護法です。労働者保護法では、労働者10人以上の雇用で就業規則の提出が定められています。そして、提出した就業規則を労働者側に不利な変更をする場合には、雇用者全員の同意が必要となります。
一方、タイ人の「転職観」についても、日本人とはかなり違います。タイ人が職場に求めるものとして、『タイ人と働く―ヒエラルキー的社会と気配りの世界』(ヘンリー ホームズ、 スチャーダー タントンタウィー/著、めこん、2000年)では以下の「3S」を紹介しています。
・サバーイ(心地よい)
・サヌーク(楽しい)
・サドゥワック(肉体的負担が少ない)
これらを満たす職場が、タイ人にとっては良い職場と見なされるといわれています。こうしたことからも日本人経営陣にとって、タイ人にとっての良い職場環境を提供するのはなかなか難しい問題になっています。
ヘッドハンティングを含め、退職時の問題への対応は、以上の規則、状況を踏まえた上で、事前にタイ人から見ても日本人から見ても客観的に納得のいく条件を明文化して置くことが最大の防御となります。
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