引地達也(ひきち・たつや)
一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。
◆月命日に思う
2011年3月11日の東日本大震災以来、被災地では毎月11日は「月命日」という。月に一度の墓参りなど、突然亡くなった犠牲者の霊を悼む日になっている。被災地では多くの人が、あの日を思い出し、ため息をついたり、涙が溢れたりしながら、時を重ねているのだろう。
私が暮らす東京に「月命日」はないから、その日を悼むのは、年に一度の3月11日にメディアを通じて思い出すだけとなる。そうなると、やはり風化は進んでいく。その月命日の2月11日、宮城県の石巻市、南三陸町、気仙沼市、翌日には岩手県の陸前高田市を訪れた。震災直後からこの被災地沿岸部は私の活動拠点だったが、私も被災地を訪問する機会は減った。震災から7年となる月日の中で、各地域とも「復興」の名のもとに新たな「町づくり」は進んでいるが、その表情はまったく違うのを強く感じる。
◆縦断で見えるもの
震災直後から宮城県から岩手県にかけての沿岸部を「縦断的」に支援活動をしていた私は、町や地域を「定点的」に支援や関わる人が多い中で、縦に地域を見て、活動する存在は珍しい動きでもあった。
トラックやワゴン車を駆使し、物資を届け対話する活動を、朝に南三陸から出発し北上、気仙沼でも活動し、夕方には陸前高田というスケジュールである。宮城と岩手をまたぐことで、支援活動や復興の進め方の違いも肌で感じてきた。同時に南三陸と陸前高田の町の表情が非常に似ていることも気になっていた。山に囲まれた大きな漁港がある港町の両地域は良港の条件がそろった地理的環境が2011年の大津波では、巨大な津波のエネルギーが集中する場所として、甚大な被害をもたらすことになった。
町が壊滅し、平野部にあったものはほぼ根こそぎ消失し、奇跡的に残った建物などが象徴的な存在となった。南三陸では、骨組みだけとなった防災庁舎であり、陸前高田では、「奇跡の一本松」である。
◆悲劇の防災庁舎
南三陸の防災庁舎は、同町の職員、遠藤未希さんが「高台に逃げてください」と防災無線で最後まで避難を呼びかけて、建物が大津波に襲われ、犠牲となったことで知られる現場だ。その声はユーチューブなどで全世界に知れ渡り、震災を声で印象付けた存在でもある。
防災庁舎の遺構は、震災遺構として宮城県や復興庁が支援する姿勢だったのが、当初、町は「復興事業の支障となる」と反発。結局、パブリックコメントの6割が「残すべき」となり、2031年まで宮城県が管理することになった。
そこには、どことなく外から押し付けられた遺構の印象があり、年々、遺構の存在感が薄れているような気がするのは個人的な感想だろうか。かさ上げする方針である町の造成の仕方があまりにも遺構への配慮がなさすぎるのだ。遺構の周囲はかさ上げした盛り土の中に囲まれたような格好で、肝心の防災庁舎は窮屈な佇まいだ。遺構を「残す」ことは、後世とそれぞれの記憶に「遺す」ことであるという理念を忘れたかのようで、寂しい。
◆奇跡を伝える
陸前高田の「奇跡の一本松」は、江戸時代から350年に渡って植林された海岸沿いに並ぶ7万本の高田松原で残った一本。しかし根が腐り枯死したため、保存の是非の議論を経て、幹を防腐し、心棒で補強することになった。今後は「高田松原津波復興祈念公園」のシンボルとなっていくだろう。
町全体は造成が進み、松から臨む海には防潮堤がそびえ立ち、海は見えない。その代わりに、奇跡の一本松はそびえ立ち、来訪者を案内している。そこには強いメッセージを感じるのだ。
南三陸と陸前高田を比較して優劣をつけるつもりはない。支援をしてきて感じたのは、それぞれに地域アイデンティティがあるということ。それぞれのアイデンティティの良い部分を活かして、まだまだ進まなければいけない復興の道を歩んでいってほしい。
※『ジャーナリスティックなやさしい未来』過去の関連記事は以下の通り
第125回 阪神・淡路大震災の東西報道と「普遍的な価値」付け
https://www.newsyataimura.com/?p=7194
精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/
■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link
■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/
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