東洋ビジネスサービス
1977年よりタイを拠点として、日本の政府機関の後方支援に携わる。現在は民間企業への支援も展開、日本とタイの懸け橋として両国の発展に貢献することを使命としている。
今回は、これまで何度かご紹介したタイ企業との合弁に関する新たなトラブルについてご紹介します。タイへ進出する外国企業はタイの「外国人事業法」に定められる通り、株式の過半数をタイの企業が持つ必要があります。そのため、日本本社が持つことができる株式は最高で49.9%となっています。
もしも50.1%をタイの会社1社だけに委ねてしまった場合、最悪の事態はどのようなことが待っているのかは皆様のご想像の通りです。「日本側が誰も気が付かない間に、すべてタイ語での手続きで株主総会が開かれ、過半数の役員をタイ側株主が選任して経営権を取られてしまうのではないか」という不安が杞憂(きゆう)に終わることを祈るばかりです。
◆新聞公告と議事録で形式的に済ませている実態
さて、A社は合弁相手に過半数を持たせるような危険は冒しません。自らの持ち株49%に対して、タイ人マネージングディレクター(MD)は同数の49%、そして手堅く2%は日系メガバンクへ出資を依頼しています。邦銀とA社と合わせて過半数の51%の持ち分となります。安心してタイでの事業を開始しました。ところが、残念なことに合弁相手との関係は思ったようにはいきませんでした。最終的には、株主総会でタイ人MDを解任する事態となってしまいました。
登記の変更に株主総会の決議が求められるような場合、通常は、株主総会を実際に開催することは少なく、形式的に新聞公告・議事録を残して完了とすることが多くなっています。今回の手続きも同様にタイ民法で定められた通りに株主総会開催の7日前に新聞公告を掲載し、総会の議事録を作成しました。
ところが、タイ人MDも一筋縄ではいきません。登記の変更に対して、商務省に異議を申し立てたのです。商務省から関係当事者に対して状況説明が求められました。そして、株主総会が正しい手続きで執り行われたかどうかの調査が入ります。株主総会を開催するにあたっての取締役会が開催されたかどうか、取締役会の議事録の提出を求められることもあります。
◆労を惜しまず、証拠書類も残す
商務省としても、異議申し立てを受けた場合には立場上全ての手続きに対して細かく確認をする以外に方法はありません。最終的には全ての証拠をそろえて株主総会を再度開催するよう指導がありました。
残念ながら、このような友好的でない形での株主総会は、実際に株主総会を開催して、しっかりと決議することが重要です。そして、開催したことを証明するための証憑(しょうひょう)をしっかり残すことが肝要です。
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