迎洋一郎(むかえ・よういちろう)
1941年生まれ、60年豊田合成入社。95年豊田合成タイランド社長。2000年一栄工業社長。現在中国、タイで工場コンサルタントを務める。自称「ものづくり研究家」。
前回、標準化の重要性とその実例について述べた。「標準化と遵守状況シート」を既にお試しいただいた方はいるだろうか? 標準作業を維持することは易しいようで本当に難しい。
あなたの工場では、以下のようなことが起こっていないだろうか?
①作業者が自分流にやりやすい方法を考え、作業手順を変えていた
②監督者が標準作業を理解せず、ミスを見逃していた
③他工程の手余り作業者がやってきて作業員同士がしゃべっている
④携帯電話が鳴り、その電話に対応する
⑤退職者が出て新人を投入したが、ミスが続出
⑥材料が変わったが、標準書に反映しておらず不良発生
◆「標準遵守確認パトロール制」導入を
標準作業が守れない原因は主に3つあり、それぞれについて検討していきたい。
まず第1の要因は、前述の事例の①、②に該当する監督者、作業者の認識不足、教育不足に伴うものである。
日本人は自己抑制が働き、与えられた課題をこなしていくのが得意である。しかしながら、中国やタイなどで工場の作業指導を行っていると標準作業を無視する人があまりにも多く、大変な思いをすることがある。
この問題の解決方法は、地道な教育と上位者によるフォローアップしかない。特に中国人やタイ人に対しては、モチベーションを与えて働かせることが重要であり、OJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)によって標準作業の成功体験を積ませることも一つの方法である。
また、上位者によるフォローアップ方法としては、「標準遵守確認パトロール制」を導入していただきたい。現場の維持管理責任者は班長、係長と呼ばれるが、監督者の業務は組織の中で一番忙しい。忙しい監督者が確実にフォローアップできるようにするため、以下のことをルール化するものである。
◆巡回点検シートの作成
巡回時間の設定……午前10時に工場内放送で「監督者の皆さん、標準遵守状況確認を行いましょう。作業者の方はやりにくい、やれない、もっと良い方法がある場合は、巡回者に提案してください」と呼びかける。巡回者用の帽子を作り、標準遵守パトロール中だと作業者にわかるようにする。この方法は、作業者側から監督者の行動を監視することにもつながる。
◆十分な標準作業設定を
第2の要因は③、④に現れる事例である。即ち、標準作業自体が十分に設定されていない欠陥である。他工程の手余り作業者が発生すること自体、標準作業が十分に出来ていない証であり、また職場に携帯電話を持ち込ませないことが標準となっていなければならない。こうした事例が起こった場合は、ただちに標準の見直しに着手しなくてはいけない。
◆環境の変化に即応する
第3の要因は⑤、⑥に代表される環境変化に起因するものである。外部環境の変化は、その要因の英語の頭文字から「4M」と呼ばれる。具体的には、
▽Man(人)…欠勤、退職、応援、受援などで人が変わる
▽Machine(機械設備)…故障、点検整備、負荷時間などで他機に変わる。金型が磨耗してバリやヒケなどが発生し加工時間が変わる
▽Method(方法)…検査規格が変わる、型が補修または更新され作業のやり方が変わる、計測冶具が変わるなど
▽Material(材料)…仕入れ先変更、材料変更、製造履歴変更、季節切り替えなど
現場は生き物である。作業環境は常に変化が生じるが、その対応が悪いと標準遵守が崩れていく。その問題を改善するため、「4M変化点即断・即決会」と銘打ち、各職場に大きな管理板を掲げる。毎日発生する変化点の項目とその内容をこの掲示板に記入し、併せてその結果どう処置したかも記入して職場の全員に周知徹底する。
【管理板の例】
◆問われるマネジメントの取り組み姿勢
これまで標準作業の定着を阻害する要因とその対応策について述べてきたが、標準作業の維持管理は本当に難しい。作業員への教育、フォローアップ、さらには変化に対する対応などは、その定着を意識し続けない限り、成し遂げられない。標準作業の維持管理が出来るか否かは、マネジメントの取り組み姿勢いかんなのである。(以下 次回に続く)
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