SurroundedByDike(サラウンディッド・バイ・ダイク)
勤務、研修を含め米英滞在17年におよぶ帰国子女ならぬ帰国団塊ど真ん中。銀行定年退職後、外資系法務、広報を経て現在証券会社で英文広報、社員の英語研修を手伝う。休日はせめて足腰だけはと、ジム通いと丹沢、奥多摩の低山登山を心掛ける。
今回紹介するのは、「セックス、身もだえ、ビデオテープ」という見出しの「The Economist May 3rd 2014, Science and Technology欄 副題 痛みの感知 (Pain perception)」の記事である。
一見、平然と立ち読みするには勇気を要する類いの週刊誌のお株を奪う見出しである。しかし、実際には世に広く知られる経済誌の記事の標題である。以下内容を要約する。
「動物の行動を研究する学者たちには永年、自分たちが実験の場において研究対象とする、動物のそばにいることが実は実験結果をゆがめているのではないかという懸念があった。今回、それに答える形でカナダのマギル大学の2人の研究者が発表した論文の内容を紹介したもの。
実験の手法は、可哀想にもハツカネズミに薬剤を注射しわざと炎症を起こさせ、ヒトがその実験室に居合わせる状態を変化させ、その痛がる度合いの違いをビデオテープ(videotape)に記録したもの。具体的には、まず、男性がネズミから50センチ離れた状態で座る場合を調べた。次に4人の異なる女性を1人ずつ交替に座らせた場合、および誰もいない場合についてモニターをしたのである。
気の毒なネズミが痛みにもだえる(writhe)度合いを耳と頬ひげの位置の変化、鼻腔(びくう)のふくらみ具合によって計測した。その結果、やはり予期した通り、ヒトが近くにいるとネズミがストレスを感じる事実を確認したのである。
ネズミは恐怖に起因するストレスを感ずるとある種の防御本能が働き、まもなく感ずることになる痛みに対し鈍感になるようである。つまり男がそばにいると痛みの感じ方が軽く、逆に女が居合わせるか、あるいは誰も居ないと鋭いのである。
女性のなかでの個人差も問題にならない。つまり同じ哺乳類であるせいか、より攻撃性の高い男がそばにいる方がネズミのストレスが高くなるという。また、ネズミの性別にも触れられていないので雄でも雌でもそばにいるヒトの性別(sex)が男の場合に限ってストレスが高くなるのである。
また、前夜まで着ていたヒトのTシャツにも同様な反応であったという。つまりヒトではなく女性のTシャツをおいても痛みの反応は正常なのに対し、男のものには痛みの表情が軽い、すなわちストレスが高い結果となった。
作用するのはホルモンらしい。この論文結果が示唆するのは、動物の行動形態の研究者にとって、実験環境を整えることは結構やっかいである、ということらしい。というのはヒトが居合わせるか否かに限らず、動物にとっては我々人間が触知できないさまざまな環境要素が実験結果、ひいては導かれる理論に影響を与えている可能性があるからだという」
◆見出しに語呂合わせを頻繁に使う英米誌
全く門外漢の私ではあるが、サイエンスとは難しいものであると想像させる記事である。
さて、この記事を紹介するにあたって本当に言いたかったのは、男がネズミに対して意図しなくても備わっている攻撃本能の存在云々(うんぬん)ではない。冒頭の見出しに戻るが、その表現のセンスの好みは別として、ビジネス誌でありながら科学・技術セクションで地味な内容も何とか気楽に誘導して読ませようとするサービス精神の表れとみるべきなのか。私を含めて日本の中高年はダジャレ好きで、特に女性の前で乱発し冷たい視線を浴びる自虐行為は珍しくはない。
一方、英米誌の見出しにも語呂合わせ(word play)が頻繁に使われる。英語が無節操なまでに多言語を吸収して圧倒的な語彙(ごい)の豊かさを持つことが背景にあるのであろうか。いずれにしても英米紙の一面である。
※今回紹介した英文記事へのリンク
http://www.economist.com/news/science-and-technology/21601493-rodents-feel-less-pain-when-men-are-around-scientists-worrying-sex
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