п»ї 消費増税再々延期 政策のご都合主義の末路が見える『山田厚史の地球は丸くない』第69回 | ニュース屋台村

消費増税再々延期 政策のご都合主義の末路が見える
『山田厚史の地球は丸くない』第69回

5月 27日 2016年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

「お待たせしました」、というところか。安倍首相が来年4月から始まるはずの消費増税を延期するという。本来なら、昨年10月から始まっていた。来年へ延期を決めたのは2014年10月。その時、首相は「リーマン・ショック級の混乱がない限り、必ずやります」といった。だが多くの人は疑っていた。

「近づいたらまた延期でしょう。やるやる詐欺ですから」というふうに。

◆「増税やるやる詐欺」

安倍さんの頭にあるのは経済でなく憲法改正といわれる。頭の中はのぞけないが、憲法改正に必要な議席へのこだわりは見て取れる。

2014年に「増税延期」を決めた途端、解散総選挙に打って出た。

考えれば政権党が都合のいい時に、国会を解散し総選挙ができる、という仕組みはヘンではないか。選挙は政党による競争だ。対等な競争条件でなければ正しい結果はでない。憲法には「首相の解散権」など明記されていない。

話が少しそれたが、本日のテーマ「政策のご都合主義」は、選挙ともからむ安倍政権の政策構造の解説である。

「増税やるやる詐欺」は、古典的な騙(だま)しの手法だ。相手を不安に追い込んでおいて、スッと不安要因を外す。「ほらよかったでしょ、俺に感謝してね」と恩を売る。何度でも使えるのが特徴だ。

前回、この手法で議席を守った安倍自民党は、憲法改正の天下分け目ともいわれる7月の参議院選挙にまたこの手法を使うのでは、と世間は見ていた。国会で「消費税の再延期を考えているのでは」と聞かると「リーマン・ショック級の混乱がない限り……」と判で押したような答弁を繰り返した。

では、国内経済はそんなに悪いのか。政府の経済判断である5月の月例経済報告は「景気は一部に弱さが見えるが、緩やかな回復基調が続いている」と書いている。

これからの見通しはどうか。日銀が年4回発表している「展望レポート」(4月)は「2018年度までを展望すると、国内需要が増加基調をたどるとともに、輸出も、緩やかに増加するとみられる」

どこを見てもリーマン・ショック級の混乱は見えない。消費増税先送りは「経済判断」ではなく「政治判断」である。この場合の「政治」とは選挙であり、政局なのだ。

◆「三つの勢力の攻防」

その一方で、月例経済報告や展望レポートがいうように日本経済は「緩やかな回復基調」「増加基調」なのだろうか。庶民の懐具合は決してよくない。消費が振るわない。これから「増加基調」になりそうもないから不安で、財布のひもを締めている。政府の判断は楽観的過ぎる。

レポートを書く役所に問題がある。月例経済報告は内閣府が作成し、首相がメンバーだ。ひどい結果になれば「経済失政」の責任を問われる。深くかかわる財務省は「景気が悪いなら財政出動を」といわれる。だから「景気は回復基調」であってほしい。

日銀も同様だ。黒田総裁が年間80兆円もの国債を買い入れて、「前年比2%に物価を上昇させます」と公約した。「景気に効きませんでした」では困る。黒田総裁は、記者会見の度に「物価が上がらないのは原油価格下落の影響で、コア物価は緩やかに上がっている」と強がっている。みな、ご都合主義である。

安倍政権の経済政策は「三つの勢力の攻防」で形成されてきた。一つは財務省を中心とする官僚機構。二つ目が首相を取り巻く新自由主義のブレーン。三つ目が自民党の族議員だ。

旧来の自民党政権は官僚機構に任せ、官僚が族議員と妥協しながら経済運営を担ってきた。ところが官僚は失敗した。財政は大赤字、金融危機で銀行がつぶれ長期停滞の中で「構造改革」の旗をたてて政権に食い込んだのは新自由主義の論客や経営者だ。象徴が「小泉竹中改革」で、安倍政権は経済政策ではこの流れを汲(く)んでいる。官邸主導で財務省を押さえ、首相直轄の経済財政諮問会議や産業競争力会議で規制緩和路線を進めている。

アベノミクスと呼ばれる常識はずれの金融政策は、官僚機構でも、自民党でもない「首相の取り巻き」による政策だ。官僚統治が失敗した反動で、メディアの論調も「自由化・規制緩和」に大きく振った結果、経済効率重視の強者のための経済が出現した。

◆剥がれるアベノミスクのメッキ

新自由主義に支配された官邸主導の政策が破たんしたのが今日の問題だ。

異次元の金融政策は空振り。巨額のマネーは民間銀行の日銀当座預金にとどまったまま。たまったカネをマイナス金利で追い出そうと日銀は必死だが、巷(ちまた)に資金需要はない。失敗のツケが民間銀行の経営を脅かし始めている。

企業を儲けさせることで下々に恩恵を波及させるトリクルダウンがアベノミクスのキモだったが、グローバル経済では企業は利益を国内に還元しない。海外投資は盛んでも、賃金や設備投資に回らない。実質賃金は下がり、消費は振るわず、格差は広がる。企業の儲けはタックスヘイブンに流れ込み、税金は取れず、干からびた財政は中・低所得者の懐を当てにする。多国籍化した資本は国民経済から遊離して世界を飛び回るが、政府は国境から出られない。

アベノミクスのメッキは剥(は)がれ、地金が見え始めたことが「消費税再々延期」という大衆迎合政策の発動につながった。

強者の経済政策は地方経済を疲弊させる。市場原理で負け組になる地方は、政治力で再分配を求める。頼りは自民党族議員。財政出動の声が高まっている。

増税は出来ない。ならば国債だ。日銀が更に買い上げ、輪転機が財政を膨らます。社会保障財源の不足を口実に、景気に即効性がある公共事業の積み増しが始まるのではないか。

「やってはいけない財政の一丁目一番地」が日銀による国債引き受けである。安倍政権はその道を突っ走る。

「先のことはどうでもいい。今の景気と今度の選挙」

向かう先は、金融・財政の同時破綻だ。安倍首相が消費増税再々延期を決めた後、日本国債の格付けは、どうなる。空恐ろしいことが始まりそうだ。

One response so far

  • 箒川 兵庫助 より:

    読み応えのある記事でした。

    ム-ディ-ズがどう出るか楽しみです。しかし,「恐ろしいことが始まる」ような気がしないのですが。じわじわと忍び寄ってくるものなのでしょうか。

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