п»ї 消費税の盲点 越境する電子取引に抜け穴『山田厚史の地球は丸くない』第18回 | ニュース屋台村

消費税の盲点 越境する電子取引に抜け穴
『山田厚史の地球は丸くない』第18回

4月 04日 2014年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

ビルの地下に開店したとんかつ屋に入った。昼定食が2000円。ロースかつにエビとクリームのコロッケが付くボリューム感のあるランチ。しかし、強気の価格設定だ。

「ちょっと高くない?」。店の人に言うと、「消費税8%では1000円台は無理です」。つれない返事が返って来た。

今月1日から始まった8%消費税。2000円の商品なら約150円が税金だ。これまで「おまけ」みたいだった消費税が、存在感を現したように思えた。物価が落ち着いていたうえ、税込表示なので強く意識されなかったが、プラス3%は隠れていた税金の塊を意識させる。

朝日新聞の月々の購読料は3925円だった。4月から4035円になった。増税分上乗せで4000円を突破し、「高くなったな」と実感させる。大台超えは堪えようと踏み止まっていた価格設定が、歯止めが失った。たかが3%で済まない衝撃である。

◆電子書籍、買うならアマゾン

そんな中で「8%消費税」を機に、「内外不公平」が電子商取引で問題になっている。

例えば急速に伸びている電子書籍。スマホやタブレットの普及で、ダウンロードして読む人が増えている。ところが、アマゾンから買えば消費税は課税されない。注文した客がアクセスするのは海外にあるサーバーなので、日本国の課税が及ばない。紀伊国屋書店や講談社から電子書籍を買えば、8%消費税がかかる。同じ1000円の電子書籍が国内業者から買えば1080円、アマゾンなら1000円だ。

「8%という価格差はコストダウンで吸収できる金額ではない。こんな不平等が続けば日本の電子書籍はアマゾンの独り支配になる」。日本の出版業界有志がつくる「海外事業者に公平な課税適用を求める対策会議」(肥田美代子会長)は訴えている。

電子書籍の日本での市場規模は推計729億円(2012年度、インターネットメディア総合研究所調べ)で、将来的には紙の出版物にとって代わる勢いにある。それがアマゾンに持っていかれる。対抗手段は、別会社を海外につくってサーバーをおいてそこから日本に売る、ということになる。事業の空洞化が起こるだろう。

電子書籍だけではない。「ネット広告」も海外で受注すれば消費税を免れる。国境をまたげば非課税という「タックスヘイブン」がネットビジネスに横行している。大和総研の推計では、海外を使った課税逃れは2012年で240億円(日本市場)に及ぶという。

◆ビジネスのグローバル化に対応できていない日本の税制

「実は10年も前から危ぶまれていたことですが、ネットビジネスに強い米国が規制に熱心でなかった」

財務官僚は言う。米国には、州によっては売上税があるが、連邦レベルの消費税はない。アマゾンやグーグルが他国で儲けることを米政府は止める気はない。

見過ごされてきた国益の流出が消費税8%を機に国会でも問題になった。やがて10%になれば「内外不平等」は日本の業者の首を絞める。

財務省は欧州での動きを参考に、①個人への販売には登録業者制度②法人間取引は購入した日本の業者が税金を代行して払う「リバースチャージ」を導入――を考えている。

政府税調でこれから検討し、できれば来年度から実施するという。「ドロナワ」もいいところが、「制度が出来ても実効性が疑わしい」と関係者はいう。日本で販売する登録業者を外資がすべて設置するか。納税を怠った外国の業者からどうやって徴税するのか。

多国にまたがる複雑なシステムをつくって逃げることも可能だ。ネット業者が得意とする課税逃れだ。法に違反しなければOKという経営感覚も無視できない。


日本の側にも問題はある。日本の消費税はEU(欧州連合)と違い、流通段階で払った税金の送り状(インボイス)がない。納税義務者は最終販売者だが、事業規模1000万円以下は非課税、5000万円以下は簡易納税になっている。この仕組みだと外国業者の販売実態を正確に把握することは難しい。電子取引の買い手である会社に納税を代行させるといっても、だれから買ったか相手を把握するのが大変だ。

「税は国家なり」といわれ、課税も徴税も水際で止まる。それが国民国家の税制だ。ビジネスのグローバル化に税制が対応できていない。国境を越えた統一的な税制と徴税システムがないと、グローバル企業から税を取れない時代になった。

現実は領土問題や民族、宗教で国家は大揺れ。世界国家など夢のまた夢である。8%消費税があぶり出した税制の盲点は、地球規模の課題を我々に突き付けている。

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