東洋ビジネスサービス
1977年よりタイを拠点として、日本の政府機関の後方支援に携わる。現在は民間企業への支援も展開、日本とタイの懸け橋として両国の発展に貢献することを使命としている。
今回は、労働組合問題で悩む会社のケースをご紹介します。H社は会社設立からそろそろ20年を迎えます。タイ人従業員からの評判は良好です。むしろ良好すぎることが問題となっています。弊社に駆け込んでこられた際には、ボーナスアップを求める従業員のストライキにより、業務が止まってしまい、ほとほと困り果ててのご相談です。一体どうしてこのような事態になってしまったのでしょうか。
◆「立ち作業手当」まで支給
冒頭でも述べた通り、そもそも、これまでの労使関係は大変良好でした。なぜそれほどまでに良好かというと、代々の現地法人社長(タイではMD=マネージングダイレクターと呼ばれることが多い)が労働組合の要求に全て応じてきたからです。
もちろん、賃金アップの要求にはいつでも満額回答です。様々な手当はすべて承認され、揚げ句の果てには労働組合側は要求するものがなくなり、立って作業をする従業員に対して「立ち作業手当」までが設定されました。工場のラインで仕事をする際に、座ってできる作業に従事する従業員と比べて、一日中立って作業をしなければいけない従業員には手当が必要だとの主張をすっかり鵜呑みにして設定された手当です。
今まで全て要求をのんできた理由を確認すると、業績が良かったため、ストライキになるぐらいだったら、労働組合の要求を全て受け入れた方が経営効率が良いという理由でした。
このまま全ての要求をかなえることができれば良かったのですが、業績が悪化した場合はそうはいきません。今期はボーナスを払うと創業以来初の赤字になる見通しです。今までのように賃金アップ、ボーナスアップの要求には応えることができません。なんとか理解してもらえるよう言葉を尽くしたつもりですが、返ってきたのは全社を挙げてのストライキという最悪の展開でした
ストライキ画策の背後には、会社設立時からのメンバーである管理部のタイ人がいるようです。労働組合の委員長とすっかり一緒になってストライキを計画しています。日本人対タイ人の構図となってしまうと日本人側にはまず勝ち目はありません。また、最近では労働組合に入れ知恵をする凄腕(すごうで)アドバイザーも多く出てくるようになって労使交渉では更に苦戦が強いられます。
◆創業時の人選には最大限の注意を
今更になってこれまでの甘い対応を反省しても後の祭りです。ここでの教訓は2点です。まず1点は、創業時のメンバー選びです。創業時のメンバーは後々まで良い意味でも悪い意味でも大きな影響力を持ちます。創業メンバーが社風をつくると言っても過言ではありません。人選には最大限の注意を払い、妥協なく指導をしていきましょう。
そして2点目は、1点目と重なる部分もありますが、とにかく日本人対タイ人の構図をつくらないように現地法人の経営陣の立場に立って話をすることができるタイ人を育てることです。もちろんですが、交渉時にはあまりに甘い対応は考えものです。業績好調・労使関係順調な皆さまも、今度どのように状況が変わるかは分かりません。どうぞ気を緩めずにふだんから心がけておいてください。
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