п»ї 産学連携による広島県の地方創生『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第75回 | ニュース屋台村

産学連携による広島県の地方創生
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第75回

8月 12日 2016年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

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 バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住18年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

広島県は輸送用機械、電気機械、鉄鋼を中心とした中国・四国・九州における最大の工業県である。2014年工業統計調査(確報)によると、製造品出荷額等において全国で第10位、付加価値額は11位であるが、他の項目を見てみても、土地面積では第11位、人口第12位(2015年 総務省「国勢調査」)、名目県内総生産第12位(2012年 内閣府「県民経済計算」)、1人当たり県民所得第8位(2012年 内閣府「県民経済計算」)、事業所数第15位(2014年 経済産業省「工業統計調査」)、47都道府県魅力度ランキング第15位(2015年 地域ブランド総合研究所「地域ブランド調査」)と、良くも悪くも多くの項目にて全国10位前後の県である。広島県も高齢化・生産年齢人口減少、あるいは海外シフトによる国内産業の空洞化といった波にのみ込まれようとしている。今回は広島県の地方創生を考えてみたい。

1.広島県の産業の特徴

①歴史的背景

広島県は、海と山に囲まれたデルタ上に位置する都市という地理的背景もあり、戦時中には日本陸軍・海軍の主要拠点が配置されており、広島湾や呉を中心に造船等の軍需産業が発展し、軍都としての色彩を帯びていた。戦後には旧軍事施設を工業用地として活用できたことや、軍需産業に携わった技術者らによって技術が継承されていったことなどから、自動車や船舶などの輸送用機械や鉄鋼など、いわゆる「重厚長大型産業」が著しい成長を遂げ、瀬戸内工業地域の中核として、中国・四国・九州最大の工業県にまで発展した。

②県内産業における製造業

冒頭にも述べたが、2014年工業統計調査(確報)によると、広島県の製造品出荷額等は9兆5685億円(従業者4人以上の事業所)で、全国第10位の工業県(全国シェア3.1%)となっており、11年連続で中国・四国・九州最大の工業県である。付加価値額は2兆8404億円で全国11位(全国シェア3.1%)、こちらも4年連続で中国・四国・九州において1位となっている。また、「広島県の地域経済分析」によると、広島県における製造業の付加価値構成比は24%(第1位)、従業者構成比は20%(第2位)であり、他県比製造業の構成比が大きい。製造業の強化こそが広島県の地方創生のキーとなる。

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【出所:経済産業省 広島県の地域経済分析】

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③広島県内の製造業立地

広島県において、市町村別で製造品出荷額が最も多いのは、広島市で2兆7146億円(28.4%)、次いで福山市が2兆520億円(21.4%)、呉市が1兆295億円(10.8%)の順となっており、この3市で全体の6割を占めている。

付加価値額で見てみても、最も多いのは広島市で9528億円(33.5%)、次いで福山市が4329億円(15.2%)、呉市が3570億円(12.6%)の順となっており、製造品出荷額と同様、この3市で全体の6割超を占めている。

広島県内の主要地域

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上記の図より、広島県においては市によって上位シェアの産業が異なっている。山に囲まれた地形のため各都市が分断化され、県全体として突出した産業が無いといえる。

2.広島県における強み

多様な産業集積と技術の蓄積

広島県には各都市に異なった産業集積と、それに伴う技術の蓄積がある。

県西部は戦前の軍需工業を母体として発展した地域であり、マツダを頂点に、上場企業である西川ゴム工業やダイキョーニシカワをはじめとする裾野の広い自動車関連企業群が集積、また、戦時中の呉海軍工廠(こうしょう)を受け継いだジャパンマリンユナイテッド呉事業所をはじめとして中堅中小の造船会社、ポンプ・タービンで世界トップシェアを誇るシンコー、国内船舶用塗料トップかつ世界第3位の中国塗料といった関連メーカーが集積している。近年では、東広島市に国内最先端の半導体工場であるエルピーダメモリ(現 マイクロンメモリジャパン)が進出するなど電気機械・電子部品関連の拠点の集積も進んできている。伝統工芸では熊野筆が全国的に有名である。

県東部は常石(つねいし)造船や今治造船広島工場(旧 幸陽船渠)に代表される造船業、JFEスチール西日本製鉄所福山地区(旧NKK福山製鉄所)を中心とした鉄鋼業を中心に発展した地域である。また、備後絣(びんごがすり)の伝統を受け継いだ繊維産業も集積しており、合繊織物の産地でもある。特産品では家具や琴、げたなどが挙げられる。

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3.広島県における弱み

人材流出

広島県は古くから「教育県広島」と評され、今日においても、大学進学率は全国第5位(2015年 広島県「広島県まち・ひと・しごと創生総合戦略」)、全国学力テストの結果第6位(2015年 文部科学省「全国学力・学習状況調査等」)と、教育水準が高い県である。このルーツをたどると戦前までさかのぼる。当時、戦争の戦略拠点であった広島は繁栄を誇り、1902年には東京に次いで、教員養成を目的とした高等師範学校が開校。その後、全国に先駆けて様々な教育機関が設置されていった。

しかしながら、現在は優秀な学生は大学進学と同時に大都市へ流出していく。「広島県まち・ひと・しごと創生総合戦略」によると、2014年における大学進学時の転出超過数は1605人、2013年における新卒大学生のUJIターン(Uターン=地方から都市へ移住したあと、再び地方へ移住すること。Jターン=地方から大規模な都市へ移住したあと、地方近くの中規模な都市へ移住すること。Iターン=地方から都市へ、または都市から地方へ移住すること。UJ I ターンはこれら三つの人口環流をいう)率は30.1%である。人材を地元の発展に生かしきれていないのである。

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4.広島県における地方創生

広島県の今後を考えるにあたり、強みである技術の一層の蓄積と、弱みである人材流出を改善していく必要がある。そこで、広島県における地方創生として下記のテーマを提案したい。

①産学連携の一層の強化による新技術の開発

広島県における産学連携

広島県における産学連携として、広島大学の活動がある。広島大学は従来よりマツダや常石造船といった地元の企業と包括的な連携協定を結んでおり、これまでに多くの研究成果が製品の付加価値向上につながっている。マツダにおける、国内外で評価の高い独自環境技術「スカイアクティブ」のエンジン開発や、常石造船における、波浪抵抗を少なく燃費向上を実現する船首形状、風圧抵抗を低減する居住区の隅切り形状、主機のエネルギーを効率的に推進力に変える高効率かつ省エネに貢献するプロペラと舵の設計などがその例である。

またマツダとの連携においては、マツダが持つスーパーコンピューターや研究用のエンジン、分析装置等の研究機材を広島大学に無償で提供し、学生のインターンシップを毎年100人規模で受け入れている。

広島大学工学部・工学研究科

広島大学工学部は1920年に設立された広島高等工業専門学校が構成母体である。日中戦争の全面化により戦時体制が進行すると、軍需産業のための教育・研究が重視されるようになり、終戦間近には造船科も新設された。現在は第一類(機械システム工学系)、第二類(電気・電子・システム・情報系)、第三類(化学・バイオ・プロセス系)、第四類(建設・環境系)にて構成されている。

また広島大学には真空紫外線・軟X線域での放射光を新薬開発や電子デバイスへの応用を図っている「放射光科学研究センター」や半導体とバイオの藤堂研究をしている「ナノデバイス・バイオ融合科学研究所」なども有する。

こうした研究成果に付き、積極的に民間企業との提携を図っていくことが望まれる。

②既存大学の魅力向上による人材流出防止

広島県は高校までは生徒の学力が高いが、そうした生徒たちが大学進学で県外に流出していることが最大の悩みである。広島県の大学の雄である国立広島大学ですら日本国内12位、アジアで79位のランキングにとどまる(イギリス大学評価機関QSによる)。まずは在広島の大学の魅力をいかに高め、人材流出を防ぐかが広島県の喫緊の課題である。

このためには以下の3点の提案をしたい。

(1)大学の学力水準を高める

本件は日本全体の課題でもある。2016年のアジア大学ランキングでは日本の最高学府といわれる東京大学でも第13位である。トップはシンガポール大学であるが、上位はシンガポール、中国、韓国の大学が独占している。これらの大学は産学連携に積極的で、企業から資金を集め、有名な教授や研究者を世界から誘致してくる。大学の学力を高めるためには資金力はぜひとも必要なのである。大学自体が産業界との融合を図る積極的な姿勢が望まれる。

(2)就職に有利なプログラムを用意する

学生にとって最も関心が高いことは、その後の人生を決める就職である。就職に有利であれば、優秀な学生の進学率が高まる。このためには二つの方法がある。その一つは就職に有利な科目や授業をそろえること、二つ目は企業とのコネクションを作ることである。幸いにも広島県は技術を持った有名企業が多くある。こうした企業と大学がタイアップし、企業冠講座の創設、企業技術者による大学授業、インターンの受入など積極的に行えば、学生にとって就職に有利な状況が生み出される。

(3)世界に通用する人材の育成

人口減少が進む日本社会にあって、今後国際的な人材を有しなければ世界的な競争に勝つことができず広島県の地方創生も無い。国際的な人材とは英語能力とITスキルだと私は考えている。この二つの能力を向上させるために二つの方法がある。一つは幼少期からの教育、二つ目は積極的な海外留学生の受入である。幼少期からの教育については大学の幼少教育への関与が考えられる、高校・大学との連携が出来れば優秀な高校生の他県流出を防ぐ手立てにもなる。また海外からの学生受入や自大学からの留学生派遣も重要である。最近タイに大学の事務所を作ったり、地場大学と連携して交換留学生制度を打ち出したりする大学が目立つ。しかし残念ながら提携契約を締結しただけで実質的な活動に結びついているところはほとんど無い(現地の大学の学長からのヒアリング)。広島県下の企業等を巻き込み、日タイ間での相互インターン制度の創設や企業資金による奨学金制度などを検討してみては面白いのではないか。

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