森下賢樹(もりした・さかき)
プライムワークス国際特許事務所代表弁理士。パナソニック勤務の後、シンクタンクで情報科学の世界的な学者の発明を産業化。弁理士業の傍ら、100%植物由来の樹脂ベンチャー、ラストメッセージ配信のITベンチャーなどを並行して推進。「地球と人にやさしさを」が仕事のテーマ。
前回、前々回と難しいテーマに触れました。それらはまた別の機会に掘り下げるとして、今回は少し息抜きをしましょう。
◆空き缶分別装置
約1年前、愛知の小学生の女の子が特許を取得し、話題になりました。夏休みの研究を進めていくうち発明が生まれ、特許出願をしたら特許になった、というものです。テーマは、「アルミ缶とスチール缶を自動分別してくれる装置」です。
ゴミの分別は環境問題にとって大事なテーマです。空き缶もしかり。アルミ缶とスチール缶ではあとの処理が異なります。この少女は、缶を投入するゴミ箱のような箱を考えました。仕組みを特許出願にあった図で説明しましょう。
図の上部に空いた口から缶を入れます。スチール缶の場合、図の3で示す磁石に吸い付き、そのまま少し回転します。すると、缶の本体がシート4(下向きに垂れています)を押します。そして磁石3から自然に外れ、図の右下の収納部9Sへ落ちます。図に示す缶の軌道は、まさにスチール缶のそれです。
一方、アルミ缶の場合。磁石3には吸い付かず、単に壁に当たって跳ね返り、下に落ちます。そして図の左下の収納部9Aへ入ります。こうして、スチール缶は右下、アルミ缶は左下へ分別されます。
非常に簡単な構造で、低コストですね。特別なメンテナンスもいりません。優れた発明です。
◆「面倒は発明の母」
日常生活の中から発明が生まれるのは、
「面倒臭いなぁ……」
こう感じた瞬間です。上述の少女も、ごちゃごちゃと混ざった空き缶をひとつずつ取り分けていく作業を体験したのかもしれません。
「面倒臭いなぁ……」
ジャンプ傘を発明した人も、「面倒臭いなぁ」が動機だったはずです。電動ドリル、電動歯ブラシ、テレビのリモコン……。全部、面倒臭さを解消するものです。もっといえば、自転車、自動車、飛行機だって、移動の面倒臭さを解消するものだったはずです。
「必要は発明の母」と言いますが、何が必要になるかに思い至るには、能力がいります。でも、「面倒臭いなぁ」と感じるのは万人共通の普通の感覚ですから、そちらのほうが発明の母としては身近でしょう。そしてそれを「解決したい」と思ったとき、誰でも特許がとれるかもしれないのです。
◆発明のプロセス
発明が完成するプロセスは二つに分かれます。第1段階は「課題の認識」です。「空き缶を手で分別するのは面倒だ」がそうですね。そして第2段階は「技術的な解決」です。「缶の種類によって落ちる場所を変えるための磁石と壁とシート」という構造がそうです。この構造は日曜大工程度の技能があれば可能でした。だからこそ、小学生でも第2段階までクリアすることができました。
一般に発明において、第2段階が困難です。第1段階として「遠くまで歩くのは面倒だ」と認識できても(というか、誰でも認識できますね)、第2段階として、自転車、自動車、飛行機まで造ってしまうのは、とても大変なことです。
◆第1段階だけで60点
発明には二つの段階がある。これをまず共通認識としてもちたいと思います。そのうえで、第1段階だけ考えてみる人を増やすことが大事です。といっても、第1段階は、実はほぼ万人に可能なのです。「面倒だなぁ」と思いさえすればよいのですから。
「……が面倒だ。誰か解決して」
と言いさえすればクリアです。
私は、課題を出してもらえただけで、発明としてすでに60点、と考えています。というのは、課題さえわかれば、解決はたいていできるためです。しかも、課題を見つけるのは不得意だが、技術には自信があるという人が世の中には相当いるのです。
◆共同作業のサイクルを
これを読まれている方、もし第1段階だけでも気づかれましたら、まわりの技術系の人に相談してみてはいかがでしょうか。(ご自身で解決できる方は、もちろんご自身で。まわりに適切な人がいない場合はご相談を。)
ただし、すでに誰かが気づいて解決している課題からは、なかなか新しいものは生まれません。課題自体に新しさが必要です。ですが、ひとたびそれが見つかれば、ひょっとすると基本特許ができるかもしれません。
いままで発明とは無縁だった方々が第1段階にチャレンジすることで、「知恵で生き残るべきわが国」において、一億総活躍の世界が開けるのです。
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