引地達也(ひきち・たつや)
一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。
◆人格をかけた取り組み
2018年が幕を開けたと同時に走り続けている。同時に目の前に迫っているやるべきことが頭をかけめぐる。新年早々から取り掛かり始めているが、今年は特に「チャレンジなる心」を伴っていないとやり切れそうにない。他者の力も必要だ。やろうとしていることが、新しいのが、その理由である。そのやるべき課題は自分の身の丈に合っていることなのか、という自問も最近では慎重に繰り返すことにしている。
数年前に「福祉」の領域で精神疾患をはじめとする障がい者の就労支援を始めようとした時には、それまでの福祉の在り方に疑問を感じ、新しいやり方を試みようと、少し感情的な勢いに乗っての始動だったが、今回は福祉の領域から、「教育」に入っていくことになるから、自分の人格をかけた取り組みになることは間違いない。
◆「大学」の実践
その教育とは、このコラムでも紹介している特別支援学校を卒業した生徒が「さらに学びたい」という声に応える「大学」としての実践である。彼ら・彼女らの「学び」を提供する「高等教育機関」として、「法定外シャローム大学」を今春の開学を目指し、準備を進めている。
これまで就労移行支援事業所シャローム所沢とシャローム和光、計画相談事業所シャローム新倉を開設・運営した経験を生かしての展開だが、これらの事業は総合障害者支援法に則った国の福祉政策の下、福祉サービスを的確に行うものであるのに対し、法定外シャローム大学は、国の制度にはない教育サービスである。
当事者を中心とする関係者のニーズをくみ取り、必要を感じ、制度に先駆けての設立だ。福祉サービスを利用して「専攻科」教育の形で展開している例は全国で約50を数えるが、制度に頼らず、授業料の徴収のみで運営するスタイルは全国で初めてとなるだろう。
◆学びの可能性を追求
なぜ福祉サービスを使わないのか――。
それは、学びの可能性を追求したい、という思いがある。学生は知的障がい者がほとんどであり、特別支援学校では「社会でどのように働いていくか」に主眼が置かれた訓練の場所となり、学びを重視したスタイルではなかったと思われる。学生は福祉サービスを受けられる公的な手帳を持参していると思われ、継続して福祉サービスを受けられるが、福祉と学びは別、という考えだ。
一般の大学生と同じように「大学」で学び、多くは保護者が払うであろう授業料に責任を持ち、学ぶことで自らが社会を切り開く時間にすることで、これまで閉ざされた自分の可能性を開くことにもつながるのではという狙いもある。
福祉の中で生きた生徒を、教育の中で学び、開かせることは簡単なことではない。それを想う時、自分が出来るのか、自問するのは「教育」という神聖な領域の中で、純粋に学びたいと集う学生に対して、自分が受け止められるのか、それを供する人格を備えた「教育者」になれるのか、の問いである。
◆デューイの「学校論」
現代米国のプラグマティズムの代表的な社会学者・哲学者・教育学者のジョン・デューイ(1859~1952年)は『学校と社会』(The school and society)で、学校における教育の目的は「生産物の経済的価値にあるのではなくて、社会的な力と洞察力の発達にあるのである。この狭隘(きょうあい)な功利性からの解放、この人間精神の可能性にむかってすべてがうちひらかれていることこそが、学校におけるこれらの実際的活動を、芸術の友たらしめ、科学と歴史の拠点たらしめる」(宮原誠一訳)とし、社会で「働く」ための訓練ではなく、自分の可能性を開かせるための「学び」であることを説いた。
今、特別支援学校を卒業した生徒のうちで「学び」を求める人の行く先として、社会で用意されなければならないと思う。その教育の場として「法定外シャローム大学」が成り立つのか。今年の大きなテーマである。
※『ジャーナリスティックなやさしい未来』過去の関連記事は以下の通り
第117回 知的障がい者とともに「メディア」を考えていきたいから
https://www.newsyataimura.com/?p=6871#more-6871
精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/
■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link
■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/
コメントを残す