п»ї 自動車メーカーとサプライヤーのあるべき関係『ものづくり一徹本舗』第22回 | ニュース屋台村

自動車メーカーとサプライヤーのあるべき関係
『ものづくり一徹本舗』第22回

10月 03日 2014年 経済

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迎洋一郎(むかえ・よういちろう)

1941年生まれ、60年豊田合成入社。95年豊田合成タイランド社長。2000年一栄工業社長。現在中国、タイで工場コンサルタントを務める。自称「ものづくり研究家」。

私はトヨタ自動車の1次サプライヤーで育ち、トヨタ生産方式について学び、その実行方法も懇切丁寧に指導を受けてきた。トヨタ生産方式を成立させる重要な要件として、自動車メーカーとサプライヤー(もしくは1次サプライヤーと2次サプライヤー)の間に存在する部品の発注、受注ルールがある。この部品の発注と受注ルールを遵守(じゅんしゅ)することで、双方にトヨタ生産方式のコストメリットが出るのである。

◆メーカーとサプライヤーの暗黙の約束事

その中で重要なルールを挙げてみよう。

  1. 自動車メーカーは翌月の引取り量をその前の月の25日に日次ベースで通知するとともに、向こう3カ月の月別引き取り量の見込みを内示する(例えば10月の日次発注量は9月25日に通知され、合わせて11月から翌年1月までの月間発注量の見込みが内示される)。
  2. 引き取りルールは、バラツキの範囲を1日±20%。1旬(月を10日、20日、末日の3旬に分ける)で±10パーセント、1カ月で±5%に収める。
  3.  向こう3カ月の内示は、車の売れ状況で毎月見直しをする。
  4.  毎日の発注は、カンバン方式で行う(カンバン方式とは、ジャストインタイム生産方式とも呼ばれ「必要なものを、必要なときに、必要な量だけ生産すること」を目指している。工程間の在庫量を最小化するため、カンバンと呼ばれる帳票をメーカーとサプライヤーの間で往復をさせる。このカンバンはメーカーからサプライヤーに行く場合は発注票となり、サプライヤーからメーカーに行く場合は納品書となる。一定量のカンバンを使用することで余分な部品の生産や納入を避けることが出来る)。
  5.  製品納入通い箱は、カンバン枚数に合わせて返却する。

これら5つの基本ルールが決めてある。また、トヨタ自動車の組み付け工程はいろいろな車種を混載して流す「平準化生産方式」を徹底している。

これらのルールは、自動車メーカーと1次サプライヤーで取り交されている暗黙の約束事である。このルールがあることで、サプライヤーは毎日の生産活動が計画的に効率良く行われ、改善活動も活性化されている。

このルールは基本的には1次サプライヤーと2次サプライヤーの間、さらには2次サプライヤーと3次サプライヤーの間でも適用することによってトヨタグループ全体としてトヨタ生産方式が実現されていくのである。

◆非効率生産を繰り返しているサプライヤー

ところが、2次サプライヤーや3次サプライヤーに話が下りて来ると途端に「このルールが実際に運営されていない」という現実にぶつかる。サプライヤー間のルールがどこかへ飛んで行ってしまい、発注側の都合の良い方法にルールが歪曲(わいきょく)されて運用されているのである。

ルールが守られない理由を発注側に聞くと「2次、3次サプライヤーがこのルールを遵守しないため」という答えが返ってくる。しかしそれで終わっていいものか、関係者全員で良く考えてもらいたい。
先に述べた5つのルールは、何のために存在するのであろうか? この5つのルールは「ジャストインタイム」に物をつくり、ムダ、ムリ、ムラを減らし効率的生産を行うという大目的を達成するために考えられたルールなのである。

2次、3次のサプライヤーの現状を見てみると「過剰在庫あり、デッドストックあり、真逆の納入遅延あり」と、非効率生産を毎日繰り返しているサプライヤーが数知れず存在している。

例えば、1次サプライヤーから2次サプライヤーに納入指示がカンバンで行われるが、製品納入箱が必要数返ってこない。仕方がないので、2次サプライヤーは仮箱を使って製品を納入するとともに、1次サプライヤーの工場に作業員を常駐させ正規納入箱を探して詰め替えをやっている事例がある。

またあるケースでは、カンバンが定期的に1次サプライヤーから戻ってこず、ある日突然に大量に返ってくる。このため製品箱を積むパレットが日に日に少なくなってしまい、慌てて追加製作しなくてはならないなどというトラブルが発生している。

◆メーカーとサプライヤーは対等の協力者

トヨタ以外の自動車メーカーの中には平準化を全く意に介さず、ダンゴ生産を前提として部品発注につなげている会社もある(ダンゴ生産とは、部品をまとめて大量に作る生産方式を指す。各工程に大きな仕掛かりのダンゴを持つことからこう呼ばれる)。この自動車メーカーの1次サプライヤーも当然のことながらダンゴ生産をやるため、2次、3次サプライヤーも過剰在庫や納入遅延などの地獄から抜け出すことが出来ない。

「あまりにもバラツキが多いので、納入先の発注部門に行き平準化してもらうよう相談したらどうか?」とアドバイスすると、中小企業である2次、3次サプライヤーからは「そんなことを言うと転注されてしまいます。怖くてとても言えません」という答えが返ってくる。

自動車産業の構造は、自動車メーカーが一番の権力を持ち、次に1次サプライヤー、その次が2次、3次……となってしまっているようである。私が現役時代には「自動車メーカーがやれない部分をサプライヤーが代わってやってくれるのである。従ってサプライヤーを下請け扱いしてはならない。お互いが対等な協力者であることを肝に銘じて行動せよ」と言われて育った。

サプライヤーを軽視する現状を放置して、目の前のコスト競争ばかりに気を取られ、値下げ値下げを押し付けても、サプライヤーは平準化作業が出来ていないため、改善活動によってコストを削減する状況にはない。このため自動車メーカーの価格引き下げ要求に対して、2次、3次サプライヤーの中には、人件費の削減、設備投資の延期、会社利益の減少などで対応せざるを得なくなっているケースも多い。

「給与を上げない。ボーナスを減らす」などを行えば、当然会社の従業員は勤労意欲を無くし、少しでも優秀な人材は転職を選ぶ。結果として、未経験で日本語の不自由な外国人研修生に生産ラインを任せることになり、改善活動など夢のまた夢。設備投資についても定期メンテナンスすら先延ばしにしてしまい、故障や不良多発などの悪循環を繰り返す。そうなると、発注する側は他につくってくれそうな会社に転注し、一時しのぎで間に合わせようとする。

確実に日本のものづくりの劣化が進んでいっているのである。自動車メーカーから最終サプライヤーまで風通しを良くし、「どこでパイプが詰まっているのか? なぜパイプが詰まってしまうのか?」などの問題を、関係する会社の経営陣が真摯(しんし)に追及し、改善に取り組まないと根本的な解決にはならないと考える。

日本には、トヨタ生産方式を勉強した中高年の人材が定年退職をして在野にあふれている。民間と行政が協力してこうした人材の活用について政策的な展開を図れば、サプライヤーの体質は強化され、自動車産業はもっともっと良い方向へ発展していくものと信じてやまない。

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