п»ї 障がい者のチンドン屋が繰り広げる新しい世界『ジャーナリスティックなやさしい未来』第148回 | ニュース屋台村

障がい者のチンドン屋が繰り広げる新しい世界
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第148回

12月 05日 2018年 社会

LINEで送る
Pocket

引地達也(ひきち・たつや)

%e3%80%8e%e3%82%b8%e3%83%a3%e3%83%bc%e3%83%8a%e3%83%aa%e3%82%b9%e3%83%86%e3%82%a3%e3%83%83%e3%82%af%e3%81%aa%e3%82%84%e3%81%95%e3%81%97%e3%81%84%e6%9c%aa%e6%9d%a5%e3%80%8f%e5%bc%95%e5%9c%b0%e9%81%94
一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。

◆爆発的な面白さ

爆発的な存在感はおしろいで覆われた顔の鮮やかなほほ紅だけではない。手作り楽器の滑稽(こっけい)さ、出で立ちと立ち振る舞いのおかしさ、そして彼ら彼女らの「芸」の迷いのなさ。すべては圧巻だった。

会場は笑いとともに、その新しいチンドン屋の可能性に少し気おされた印象だ。文部科学省が今年度から本格的に取り組んでいる「障がい者の生涯学習」の啓もう活動の一環として東京・渋谷で開催された「障害のある人の学びと表現の実践交流フォーラム」。「東京は初めて」と登場したチンドン屋は和歌山市の社会福祉法人一麦会の就労継続支援B型事業所「ポズック」のメンバーであり、この事業所の生業だ。おなじみのチンドン屋の音楽に合わせ、派手な衣装といでたちに手作りの楽器を鳴らして踊りながら、彼らは観客の注目を集めた。

◆「出来ない」を笑いに

観客の多くは初めての経験で、「東京の」感覚には刺激的かもしれないパフォーマンスに障がい者とチンドン屋の未来の可能性を見たのは私だけではないはずだ。沖縄の三線(さんしん)、サックス、大きなチンドン太鼓は楽器であるが、そのほかは不用品を寄せ集めた手作りの「楽器」。バケツ、フライパン、ナベ、洗濯板、木枠、テニスラケット――。

日用品が改造され、音を奏でる道具になっているところも面白いが、それを音楽として奏でる演者と、演者の良さを引き出す支援者の口上も秀逸だ。楽しそうに踊るアスペルガー傾向の強い知的障がいの男性メンバーに三線を弾く支援者の演者が「君、どこにおんの?」と質問すると、このメンバーは戸惑った表情を見せる。「じゃあ質問代えようか、何県におんの?」。するとメンバーは「大阪!」と大声をあげる。その瞬間、ほかのメンバーはずっこける。吉本新喜劇で見られる、あの「ずっこけ」だ。

「ちゃうやんか、ここは。大阪は県でもないし、ここは大阪ちゃうやん」。このやりとりに観客はどんな展開になるか、ドキドキ。「ここは都や、県でもないし府でもない。どこやろ?」。
メンバーは大きな声で「と!」と答え、一同またずっこけ。知的障がいだから、おそらくは計算してぼけてはいない。それは「障がい」なのだが、そこを笑う、力強く、笑いにする。このシーンに観客は笑いながらも圧倒されていた。

天然の「ぼけ」に突っ込みながら、支援者のメンバーは演者の紹介を展開する。総勢8人、センターでひときわ活発に踊るダウン症の男性は「ダウン界の王子」と紹介され、キメのポーズ。そこに「ダウン症」を「どうだ!」と言わんばかりのプライドがあるようで、格好良い。
テンポの良い音楽とともに、メンバーの障がい者が次々と紹介されていく流れは気持ちよく、さらに、獅子舞と達磨(だるま)が登場し、「縁起物」が踊り、声高らかに「笑う門には福来る」。

◆みなさま縁起がいい

締めの女性支援者の口上が「本日はみなさま縁起がいい。100円を拾って帰るかもしれません」。すべてを笑いというオチにして、笑いを誘う。
そんな進行役の女性支援者は「ほんまは、いつもバラバラで大変なんですよ」という真実をネタにして、観客はこの集団をまとめ上げるのは大変だと感心をしたところで、「今日も新幹線乗り遅れました」とまた笑いを誘う。
東京初登場の知的障がい者のチンドン屋は、フォーラムのプログラムには「ヘンテコお茶目なチンドンパフォーマンス」と書かれた。文部科学省という教育政策を担うお堅い役所が「おかしなチンドン屋」を紹介するのも面白いが、演者たちは文科省であろうが、渋谷であろうが、目の前の観客が楽しんでくれることに楽しみを見いだしているようだ。
このパフォーマンスに新しい可能性を見た私は、本日の時点では最初の印象だけでこの文章を書いているが、早速和歌山へ行き、彼らの活動を間近で見たいと思う。そこから何が見えるのか、分かるのか、楽しみだ。

■いよいよ始まる!2019年4月開学 法定外シャローム大学
http://www.shalom.wess.or.jp/

■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/

■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link

■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/

コメント

コメントを残す