引地達也(ひきち・たつや)
一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。
◆学びと社会について
文部科学省の「障害者の多様な学習活動を総合的に支援するための実践研究」の委託を受けて、年間5回のオープンキャンパスの第1回が9月18日にスタートした。知的障がいや学習障がい、精神障がいのある方々の「学び」の機会を提供し、生涯を通じての学びの形を研究する事業だ。
今年度初めての事業で、私たちは年間5回の講義を「基礎教育ステージ」「関わりあいステージ」「実践教育ステージ」の3段階に分けて行う予定で、第1回のテーマは「学びと社会~学びって何だろう~」、担当講師は九里秀一郎(くのり・しゅういちろう)浦和大学教授。「人が学ぶことについて、自然科学や物理学、哲学、心理学、人間関係学の多方面から考えます」をキャッチコピーに、九里教授は記された学問を経由して、確かに「学び」への導きをしていただいた。
◆学び「問うこと」が学問
講義で九里教授は「学問」について、「学問は文字で見れば分かるとおり、学ぶだけではないのです。問うこと、質問することが大切なんです」と話す。分からなければ、聞けばいい、のが自然であることを力説した。
その上で自然科学の基本である「物体」についての説明。物体とは分子が集まってできたものであり、分子は原子が集まってできている。古代ギリシャでは、物体を分割した時の最小単位として原子論が考えられたが、あまりにも小さく、20世紀に入りアインシュタインが証明するまで存在が確認されなかったことを説明し、自然界には四つの力しかないという。それは「重力」、「電磁気力」、「弱い力」(原子核の中)、「強い力」(原子核の中)。
これら見えないものを実感してもらうために「空飛ぶクラゲ」を作ろうとの実験ワークに移行する。
◆空飛ぶ電気クラゲ
空飛ぶクラゲとは、別名「電気クラゲ」で、ナイロン製のビニルひもを縦に細かく裂いて片一方を結んだものをクラゲに見立てて、水道管に使う塩化ビニルのパイプを使って空中にふわふわと浮かせる実験である。
キッチンペーパーでこすることで、クラゲもパイプもマイナス電気を帯びるので、この二つは反発して、クラゲが空を飛ぶ、という論理構造だが、やはりやってみると難しいが、面白い。空中を浮遊するナイロン製の物体は、クラゲだと思えば、そのような生き物にも見えてくる。
受講者らはグループごとに楽しみながら、自然界の見えない力を実感する。そこから、物体ではなく心の話、そして人と人のコミュニケーションの話に展開する。それは、ココロは物体ではなく、実体である、という前提から始まる。
◆ココロの実体も
ココロは言葉の影響を受ける。同時に言葉により、ココロの実体が見えてくる。人とのコミュニケーションによって、ココロの構造が見えた時に、人格が育つということになるという。
つまり実体が互いに影響を及ぼし合うことを相互作用と言う。言葉は二つの心の相互作用。電気クラゲの実験も、クラゲと塩化ビニルとの間に相互作用が成立していたから飛んだ、プラスとマイナスに働く電気力という相互作用である。
この講義は前半の50分のうち説明が20分で、そのほかの時間が実験と競争・発表の場であり、障がい者向けに時間配分も考えながらの授業であったが、初対面同士が学び合い、そして歓声をあげながら、楽しむ姿は見ていて気持ちが良い。
これを、どのように定石化できるのか。今後の講義やフィールドワークでさらに深めていきたいと思う。
次回講義は10月11日「メディアと倫理~メディアをみよう、知ろう、使おう」(担当講師・引地達也/ゲスト・ピアノコーラスグループ、サーム)。
■いよいよ始まる!2019年4月開学 法定外シャローム大学
http://www.shalom.wess.or.jp/
■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/
■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link
■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/
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