中野靖識(なかの・やすし)
株式会社船井総合研究所上席コンサルタント。メーカーから小売業まで幅広いコンサルティングフィールドを持つ。一般消費者向けの商材を扱う企業の現場レベルでの具体的な販売手法の提案を得意とする。
前回、『企業としての顧客との約束』は、全ての業務の起点となるべきもので、自社の顧客が望んでいることをわかりやすく表した“約束すべき対応”とお伝えしました。コンサルティング現場での運用では、「顧客との約束」は、その企業の業務や組織を最適化していく上で大きな役割を果たします。
◆不採算店舗はどのようにして業務を改善できたか
ある専門店チェーン店で、不採算店舗の改善業務を私が担当したコンサルティング事例をご紹介しましょう。
この店舗は売り上げの年平均成長率はダウントレンドになっており、利用者アンケート、販売動向、コスト動向等、いくつかの分析を通じて、課題を洗い出していきました。利用者アンケート(出口インタビュー)を通じて、高頻度利用者(ヘビーユーザー)の意向を確認していくと、満足に大きく影響している項目は「店員の接客」「新作や話題の商品の多さ」「商品の見つけやすさ」であり、満たされていない項目は「商品の見つけやすさ」であることがわかりました。加えて、販売動向分析からは、店頭への品出し不徹底による機会損失が見え、店頭対応作業を強化する必要性が増していることが判明し、利用者期待に対応するオペレーションを強化するためにはむしろ増員を検討しなければならない状況でした。
この時、コスト分析からは、販促費が売上に影響しない、つまり本来は変動費であるべき販促費が固定費化しており、有効に機能していないことが判明しました。このことを受け、月間数百万円の販促費を大幅に削減し、浮いたコストでオペレーション人員増員を軸としたプランを立案、実施した結果、売り上げ、粗利益が上昇し、3カ月で黒字転換することに成功しました。
専門店であるがゆえに顧客との約束を守る上で「人」が果たすべき役割が大きく、そこに経営資源を再分配した結果、財務成果が向上したということになります。このように、顧客との約束を起点として、業務改善のポイントを再検討していくことが、環境変化に強い企業体質をつくるものとお考え下さい。
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