国際派会計士X
オーストラリア及び香港で大手国際会計事務所のパートナーを30年近く務めたあと2014年に引退し、今はタイ及び日本を中心に生活。オーストラリア勅許会計士。
2年半前まで長らく住んだ香港を最近訪問し、昔の同僚や友人たちと会うとともに世界一美味といわれる中華料理を満喫してきました。食事によく行ったり買い物に出たりしていた銅鑼湾(コーズウェイベイ)は以前の通り若者たちであふれ、喧騒(けんそう)の中で忙しげに思い思いに街を行き交っていました。
香港島や九龍の目抜き通りを数カ月占拠し、香港政府に対し行政長官の選挙制度改革について抗議行動を行っていた若者たちのいわゆる雨傘運動(umbrella movement)の収束から1年余り、すでに何もなかったように香港は一見以前のままのようでした。
◆香港住民の不満の背景
しかし、実際には最近でも2月の春節前に、香港政府が排除・撤去しようとした旺角(モンコック)の露天商とそれに同調した住民たちと警官隊との衝突がありました。また4月半ばには、行政長官である梁振英氏の娘が香港国際空港からの出国時に手荷物を安全検査場外に置き忘れたことから同長官の指示で手荷物を機内に持ってこさせたという職権乱用を問題視した千人以上が空港ロビーで抗議デモを行ったと報道されています。
一国二制度下での香港の完全な民主化を望んだ学生を中心とした大規模なデモ以降、このような抗議行動が多発しているのかと脳裏をかすめていましたが、香港住民の大多数は中国政府の意を含んだ香港政府に対する公然とした対立は望んでいないとのことです。表面的には香港の統治制度に対する突発的な抗議とも受け取れますが、やはり、根底には若者を中心に漠然とした将来への不安とともに、ほぼ全ての生活コストが高くなった香港に対しての不満とそのはけ口の発露であると思います。
例えば、経済格差で言えば、香港の収入不平等指数(ジニ係数)は2011年で53.7%(日本は2011年調べで37.9%)、社会騒乱の警戒ラインの40%を優に超え危険ラインに近いともいわれ、世界の中でもコロンビアなど中南米の幾つかの国と同レベルで、このような背景からも抗議行動が多発しているのかもしれません。
また、最近になって香港の不動産相場が10%以上下落したという報道もありました。2000年代初めから高騰を続けた不動産価格は高止まりしていて、例えば香港島にあるコンドミニアムの価格は03年からで3倍以上上昇したとされ、例えば平均平米単価でも2万香港ドルを超えていると言われたものです。ちょっと前までは、比較的高給とされる職業の香港人の若手でも自宅を持つのは全く難しいという反応が返ることが多々あり、ある意味で絶望感さえ感じられましたが、最近の中国経済の減速とともに少し風向きが変わるのかもしれません。
更に、日本でもニュースになりましたが、中国本土に対し批判的な書籍を置く書店オーナーら5人が最近失踪し、中国で拘束されていたという事件がありました。言論の自由に対する脅威だけでなく、中国との一国二制度の原則そのものがどんどん失われているのではということに対する危惧も、香港の一部の人たちにはあるようです。
◆タックスヘイブンとしての香港
世界中に激震をもたらしているパナマの法律事務所モサック・フォンセカ(Mossack Fonseca)から流出した蓄財を暴露した「パナマ文書」では、世界の何人もの政治家や経済人などの関与が指摘され、既にアイスランドの首相が辞任に追い込まれる事態を招くなどしています。香港自体もタックスヘイブン(租税回避地)の一つとして位置付けられますが、同法律事務所の香港拠点が同法律事務所の顧客の3割近くのオフショア取引に関与していたとの報道もあり、香港が主要な金融センターとして行ってきたものがどのような形で理解されていくのか注視していく必要があります。
最近の幾つかの事例を交えながら香港を取り巻く懸念を挙げましたが、100万ドルの夜景が有名で「東洋の真珠」といわれた香港がこれからも輝きを維持していけるのか少しの懸念とともに、香港Loverとして香港の人たちにとってより良い形で改善されることを切に願っています。
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