古川弘介(ふるかわ・こうすけ)
海外勤務が長く、日本を外から眺めることが多かった。帰国後、日本の社会をより深く知りたいと思い読書会を続けている。最近常勤の仕事から離れ、オープン・カレッジに通い始めた。
◆ はじめに:本稿の狙い
厚生労働省で「社会保障と税の一体改革」(*注1)を取りまとめた香取照幸の著作『教養としての社会保障』を指針にして、3回にわたって社会保障の特徴と課題を考えてきた。要約すると――日本の社会保障は、皆保険・皆年金制度を中核に据え、「日本型企業」による雇用の安定と経済の成長に支えられて拡充されてきた。しかし、少子高齢化とデフレ・低成長といった社会・経済環境の変化によって、当初の前提条件が崩れつつある。また高齢化の急速な進展は、社会保障費の膨張をもたらし、その結果としての財政赤字の累積が皆保険・皆年金制度自体の持続性を脅かす状態に陥っている。その一方で、格差の拡大によって、従来型の社会保障制度では十分に対応できない貧困層対策や雇用の不安定化に対応したセーフティーネットの拡充が求められている。社会保障の財政面での制約が強まっているにもかかわらず、むしろ出番が増しているといっていいだろう。国際比較をすると日本の社会保障支出の対GDP(国内総生産)比率は先進国の中位にあるが、租税負担のそれは最下位に近い水準にある。現在の社会保障の水準を維持するためには応分の負担が必要であるし、それは可能である―――というものだ。 記事全文>>