引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校学長、博士(新聞学)。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。◆ためらいが文字に
2011年3月11日に起きた東日本大震災でボランティアとして支援活動をしてから、震災を題材にする小説や映画、ドラマなどを私は避けてきたような気がする。メディア研究の一環として、それを分析的に捉えようとしたこともあるものの、自ら率先して向き合ってはこなかった。
それは演出される映像や表現された言葉と、そこにあった現実とに大きな乖離(かいり)があること、を突き付けられるのが怖いからである。いまだに波にさらわれ海から戻らない人がいる中で、なおさらに言葉は無意味となる。
震災から10年でもその感覚は変わらないものの、その言葉にするためらいを文学にしたのが、第165回芥川賞受賞作『貝に続く場所にて』(石沢麻依著)だと解釈した。ためらいにも確かな鼓動があり、それが伝わる。
震災時、仙台の内陸で被災した作者は「海も原発も関わらなかった場所にいたこと。そのことが、あの日の記憶と自分の繋がりを、どこかで見失わせている」と書くその感覚に強く私も反応する。
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