引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校学長、博士(新聞学)。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆深まらなかった日独の議論
今春、ドイツのシュルツ首相が来日し、岸田文雄首相との日独首脳会談が行われた。第2次世界大戦後の世界で、先の大戦の猛省が国際社会に強く求められた日独の位置付けは、ウクライナ情勢を受けて少しずつ変化を余儀なくされている。
自由と民主主義の価値観を共にする日独ではあるが、その未来像をどう考えていくかの対話は近年、停滞していたというべきであろう。16年にわたって首相を務めたメルケル前首相と同様に、日本では安倍晋三氏が首相の座にいたことによる、2人の志向性の違いのようなものが壁になったように思う。
メルケル前首相の中国重視と安倍前政権による米国のトランプ政権へのすり寄りは、対話の停滞を決定づけた事実となった。「ヨーロッパの母」が引退した今、なおさらに彼女の出自や政治哲学、その倫理観などをモデルに、戦後の日独の在り方の議論も深められたはずだったが、機会を失った。 記事全文>>