山口行治(やまぐち・ゆきはる)
株式会社ふぇの代表取締役。独自に考案した機械学習法、フェノラーニングのビジネス展開を模索している。元ファイザージャパン・臨床開発部門バイオメトリクス部長、Pfizer Global R&D, Clinical Technologies, Director。ダイセル化学工業株式会社、呉羽化学工業株式会社の研究開発部門で勤務。ロンドン大学St.George’s Hospital Medical SchoolでPh.D取得(薬理学)。東京大学教養学部基礎科学科卒業。中学時代から西洋哲学と現代美術にはまり、テニス部の活動を楽しんだ。冒険的なエッジを好むけれども、居心地の良いニッチの発見もそれなりに得意とする。趣味は農作業。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
前稿(『みんなで機械学習』第11回)では、個体差の機械学習について考えてみた。哲学の文脈で、概念としての個体差について考えると、少なくとも言語の範囲では、定義矛盾となってしまう。個体であるということは、言語の範囲では、属性や概念ではないことを意味するからだ。一方で、データの世界では、属性に与えられた「所与」(データの哲学的な表現)の集合体が、個体の意味となる。すなわち、個体差は言語ではなく、データの世界で理解することが適切といえる。データの世界において、個体における複数の属性間の構造が明示的に与えられているのであれば、統計モデルによる解析が可能で、統計専門家が活躍する。しかし、医療技術や株価の変動など、個体差に伴う不確定性が問題となる場合、適切な統計モデルが不明で、どのようなデータを収集するのか、どのような構造のデータベースが適切なのかなどの検討が不可欠で、データ解析以前の段階であるデータマネジメントにおいて試行錯誤することになる。機械学習とは、そのようなデータマネジメントとデータ解析を統合して自動化している、最新のAI(人工知能)プログラミング技術だ。技術的には、音楽のレコメンドなど。個体差の機械学習はありふれた課題なのだけれども、医療やヘルスケア、特に新薬開発の「バイオマーカー」における個体差の機械学習は、データ収集の段階から、従来の統計解析とは異質の社会的コンセンサスを考慮する必要がある。さらには、個体差を明示的に取り扱うことで、機械学習技術自体を再考するきっかけになりうるし、AIの新たな技術革新となる可能性もある。 記事全文>>