山口行治(やまぐち・ゆきはる)
株式会社ふぇの代表取締役。独自に考案した機械学習法、フェノラーニング®のビジネス展開を模索している。元ファイザージャパン・臨床開発部門バイオメトリクス部長、Pfizer Global R&D, Clinical Technologies, Director。ダイセル化学工業株式会社、呉羽化学工業株式会社の研究開発部門で勤務。ロンドン大学St.George’s Hospital Medical SchoolでPh.D取得(薬理学)。東京大学教養学部基礎科学科卒業。中学時代から西洋哲学と現代美術にはまり、テニス部の活動を楽しんだ。冒険的なエッジを好むけれども、居心地の良いニッチの発見もそれなりに得意とする。趣味は農作業。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
◆食べることの奥義
農業が人びとの食糧を生産していることは疑いようがない。その農業にAI(人工知能)技術を応用することで、「食」から健康へと視線を伸ばして、農業を健康産業として再定義することを試みている。そもそも、「食」を科学的に理解することはとても難しい。近代文明の理念で、人間中心の弱肉強食を前提とすれば、人類が家畜や農産物を食べることも、疑いようがないと思われるかもしれない。しかし、食べたものを消化吸収できなければ、栄養にはならない。ノーベル賞を受賞(2016年)した大隈良典先生は、酵母のオートファジー(自食作用)を研究して、単細胞生物から植物や動物まで、細胞が生きてゆくために、細胞内の老廃物を消化して再利用する仕組みを明らかにした。細胞内の老廃物としては、細胞の構成成分だけではなく、細胞外から取り込まれた有害物や栄養素も含まれていて、細胞生物学としては、オートファジーが「食」の機能ということになる。しかし、植物は菌根菌と共生しているし、動物は腸内細菌と共生して消化排泄(はいせつ)している。生態学の食物連鎖は、弱肉強食の単純なピラミッドではなく、科学的にはとても複雑なプロセスだ。老化とオートファジーに深い関係があることも解明されつつある。栄養学も、オートファジーの観点から再考する必要があるだろう。 記事全文>>