п»ї 予測不能なウイルスと政治 『WHAT^』第32回 | ニュース屋台村

予測不能なウイルスと政治
『WHAT^』第32回

3月 18日 2020年 文化

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山口行治(やまぐち・ゆきはる)

株式会社エルデータサイエンス代表取締役。中学時代から西洋哲学と現代美術にはまり、テニス部の活動を楽しんだ。冒険的なエッジを好むけれども、居心地の良いニッチの発見もそれなりに得意とする。趣味は農作業。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。

元米国務副長官リチャード・アーミテージの時評(地球を読む、読売新聞2020年3月8日)は予測不能な米国の政治状況を的確に指摘していた。「トランプ大統領のせいで米国が予測不能になったともっぱら言われるが、その指摘は多くの真実を含んでいる」(下線筆者)という指摘は、ジャーナリズムのレベルをはるかに超えていた。トランプ大統領は「我々は予測不能でなければならない。今をもって、それを始めなければならない」という約束を貫いてきた。その予測不能性は、アーミテージ氏の提案する日米同盟の本質的な見直しを必要としているだけではなく、新型コロナウイルスへの対応など、予測不能な世界を生きざるを得ない私達の現在と近未来とに重なる。

ウイルス感染は予測不能に違いないと実感している人は多いだろう。一方で、ウイルス感染は常微分方程式により正確に記載され、その基本方程式の解の安定性について数学的には十分な議論が積み重ねられている。ウイルスのゲノム解析は完璧だし、突然変異の確率も正確に計算されている。数理的な予測には膨大な計算時間と科学者の評価が必要なので、感染予防にはあまり役立たないかもしれないけれども、科学的な意味ではウイルス感染は確実に予測可能といえる。トランプ大統領も、自分の利益と欲望だけを行動原理としているのだから、経済学的には予測可能かもしれない。この実感とのギャップは、科学や経済学が、生活感覚から乖離(かいり)してしまったことが原因ではないか、と筆者は考えている。より正確には、現在のサイコロの確率では、ランダムネスの本質をとらえそこなっているのだろう。ランダムネスの本質には、素数の分布など、多くの真実が隠されているに違いない。

トランプ大統領ほど真実から遠い存在であるにもかかわらず、逆説的に「真実」に近づいている政治家はいまだいなかった。「我々は予測不能な世界を生きざるを得ない」という「真実」を政治はもっと自覚すべきだろう。「理性」や「良識」などという聞こえの良い言葉に頼っていては、生き延びることは難しい。わけの分からない数式や、何の意味もない膨大な量のデータから「真実」を見いだして生き延びるしかない。人類の90%を殺戮(さつりく)しても生き延びようとする政治家や、できの悪いウイルス(賢いウイルスは宿主を殺さない)から逃れるよりも、「真実」に裏側からでもいいから、近づいてゆきたいものだ。

WHAT^(ホワット・ハットと読んでください)は、何か気になることを、気の向くままに、イメージと文章にしてみます。

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