引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、シャローム大学校(みんなの大学校)学長、博士(新聞学)。一般財団法人福祉教育支援協会上席研究員、ケアメディア推進プロジェクト代表。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆どこでも誰でもつながる
新型コロナウイルスの影響で通学の授業と訪問講義を休止したシャローム大学校は、この危機の中でどう動くかを深く考え、社会状況を分析し、自分たちにあり方を検討した結果、新しい法人のもとで新しい「大学校」として移行していくことになった。4月の移行決定から即座に新法人「一般社団法人みんなの大学校」(代表理事・引地達也)を設立し、この法人の運営する学びの場を「みんなの大学校」と命名した。急ピッチで準備を進め、6月1日にホームページをオープンした。
これはウェブでつながるのを基本とした要支援者のための学びの場であり、これまで「通学」を基本としていた考え方から大きく転換させ、「まずはどこでも誰でもウェブでつながる」ことを中心にし、ウェブから始まる関係性をスクーリングや個別面談などでそれぞれのペースに合わせて構築していく計画である。
各種障がい者への福祉サービスを受けている人も、障がい者ではない方でも、全国のどこにいても「つながれる」のが新しい。この新しさを広め、つながってほしいと願いながら、多くの方に「みんなの大学校」を知ってほしいと思う。
◆「場所ありき」からの転換
これまでもお伝えしているように、これまでシャローム大学校は一般財団法人福祉教育支援協会を母体として、文部科学省による18歳以降の障がい者に対する生涯学習の委託研究事業を行い、2020年度が3か年計画の最終年度である。これまでに埼玉県を中心に長野県や静岡県で市民と障がい者の学びの場を創出してきたが、3年目の先には「どこでも学びの場を提供する仕組み」を示す責務を感じていた。そのため、2021年度はシャローム大学校が現在の埼玉県和光市に本拠を構え、人が来るのをただ待っているスタイルではないものを目指す必要があり、みんなの大学校はその形を先駆けて示すことになった。
障がい者の福祉サービスで学びを実践している福祉型専攻科などは事業所の場所が自治体から認可を受け、その事業所に通所することなどで報酬が得られるのが基本的な仕組みであるから、「場所ありき」が必然であるが、みんなの大学校は福祉サービスではないから、公的な規制からは自由である。だから、どんな人ともつながれる可能性がある、この発想の転換を促したのは新型コロナ禍だった。
感染防止対策として政府が推進するテレワークは、知恵を出そうとする多くの企業や個人が離れていてもできることの可能性を示してくれた。ウェブ会議システムを使っては、同じ空間を共有していない「マイナス」を補おうと、自分の業務報告をチャット形式で頻繁に報告したり、会議まで堅苦しくならない話し合いを頻繁に持ったりすることで生産性を上げたりと、それは「マイナス」ではなない認識もじわじわと広がっている。
私自身も新幹線に乗ってうかがって会うべき人と頻繁にウェブで話し合いを持ち、仕事を確実に前に進めている実感があるから、物理的な距離はテクノロジーの活用と心の距離を近づけようとする意思によって、克服できることを日々実感している。ならば、要支援者の教育も「必要な人に近づこう、つながろう」という意識のもとでの仕組みを考えた時に自然とウェブでの大学校という発想に行き着き、準備を開始した。
義務教育でも大学教育でも遠隔授業が開始される中で、18歳以降の障がい者や要支援者に対してもその学びを提供するのは社会的に当たり前と考えた。しかしながら要支援者のそれぞれの特性を「会えないこと」で把握が難しいことは悩みでもある。
◆同時性を大切に
ウェブ主体の大学校が大切にしたいのは同時性である。
つまり、講義の時間はそれぞれの場所が離れていても、一緒に集まり講義をし、受けることが基本としたい。講師と学生がそれぞれ「いる」という存在を確認しあうことは重要だ。
さらに講義の内容は大学校として、要支援者への「高等教育」が基本であるが、そこに各講師はケアの思想を伴いながら、ゆったりとしたスピードで深い学びを進める方針である。加えて、スクーリングなど、実際に集まる行事も作っていく予定ではあるが、首都圏に行事が集中する可能性があり、遠隔の学生の参加が難しい場合も考えられる。その際に機能させたいのが、各地域での「コーディネーター」の配置。一般の方でも福祉事業所のスタッフでも、この学びに誘導し、さらには地域の福祉サービスと連携する役割を担っていただき、「みんなの大学校」が社会に一歩踏み出す場所としても役立てないかと考えている。
社会との連携の中で支援者と要支援者をつなぐ役割としても「みんなの大学校」は、みんなの存在になっていきたいと考えている。
■学びで君が花開く! 支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校
http://www.minnano-college-of-liberalarts.net
■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
■ケアメディア推進プロジェクト
■引地達也のブログ
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