п»ї 新型コロナ禍下で回避できない大きな賭け 『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第42回 | ニュース屋台村

新型コロナ禍下で回避できない大きな賭け
『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第42回

8月 03日 2020年 文化

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SurroundedByDike(サラウンディッド・バイ・ダイク)

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今回は、新型コロナウイルス関連の英文記事の中で興味を引かれた英エコノミスト誌(7月25日付印刷版)のリーダーズセクションの中の記事を紹介したい。見出しは「フリーマネー(ただガネ)」。自分としては、自分の国でも緊急時下を理由に際限なくばらまき支援が行われていることに対して不安にさいなまれているのであるが、マネタリストの見地からすれば、「災い転じて」の発想もできるという内容である。しかし、記事の末尾にあるように「大きな賭け」でもある。ただし、自分たちはその博打には参加しない選択は現実的にはない。いずれにせよ、新型コロナウイルス禍が引き起こす国家財政への影響はいずれ明確に現れる。画期的に経済が好転しない限り、新型コロナウイルス禍以前でも十分にもう不安な状況だったのだ。(以下、全訳)

◆新たな時代の四つの特徴

政府はフリーマネーの誘惑に警戒すべきである

予算の制約のタガが外れたことは危険と好機のどちらも招来可能となる。

次の言葉がよく聞かれる。2007年から2009年にかけての金融危機が収まった後、マクロ経済政策を再考してみる好機を無駄にしたと。新型コロナウイルス禍が去った後、同じことをだれも言わないだろう。新型コロナウイルスは、その発生のわずか数か月前までなら想定できなかったか、あるいは邪道とみなされたであろう政策を、各国政府をして必死に法制化せしめたのである。

その結果、経済学において各時代を画して一度しか発生しないような極めて深甚な転換が起きている。それは、多分に、1970年代、仲間意識の強かったケインズ主義信奉者たちが、ミルトン・フリードマンの厳格なマネタリズムに道を譲ったこと、および1990年代、中央銀行が政府からの独立を与えられたことに例えられるように、パンデミック(世界的大流行)がいま、新たな時代の始まりを告げている。何よりも優先すべき関心事は、国が経済と金融市場に超大型規模で介入することで生まれるせっかくのチャンスを最大限活用することと、またその介入から派生する巨大リスクを抑えることである。

この新しい時代には四つの決定的特徴がある。最初は、こんにちすでに驚くべきスケールであるがまだ無限に増える恐れがあると見込まれる政府負債の額である。IMF(国際通貨基金)の予測によると今年、富裕国全体では彼らの国の経済破たんを防ぐのに必要な歳出と減税に見合う合計4兆2千億ドルの資金調達のため合算ベースでGDP(国内総生産)の17%相当の借り入れを行う予定である。しかしそれで終わらない。米国では議会で追加の歳出案が議論されている。EU(欧州連合)は彼らにとって歴史的に大きな政治的意義を持つ一線を越えて共同体の借り入れによる地域の新しい景気刺激策を決めたばかりである。

第二の特徴は、紙幣印刷機が忙しく回転していることである。米国、英国、ユーロ圏そして日本の各中央銀行は今年約3兆7千億ドル相当に達する新たな準備金を用意している。その資金の多くが政府債務の買い上げに充当されており、それは各国中央銀行が暗黙のうちに景気刺激を支えていることである。その結果、公的債務の発行が増えても長期金利は低いままである。

国家が資本配分の主管としての役割を拡大していることは新時代の第三の側面である。信用危機を終わらせるために米連邦準備銀行は財務省と共に金融市場に踏み込んでAT&T、アップルそしてコカ・コーラ発行のものまでも含めた社債を買い、債券ディーラーから非営利病院まであらゆる相手に直接融資をした。連銀と財務省は共同でいまや米国の事業用途借り入れ全体の11%にも及ぶ額を支援している。富裕国全体で見ても政府と中央銀行が同じように動いている。

最後の特徴が最も重要である。低インフレである。物価上昇圧力が存在しないことは中央銀行の貸借対照表の膨張を今すぐ抑えたり、あるいはゼロ近辺の短期金利を引き上げたりする必要がないことを意味している。低インフレとはしたがって公的債務について心配しなくてもよい基本的な根拠であり、それは融通性ある金融政策のおかげで公的債務の返済は、今あまりに低コストなのでまるでタダのカネのように思えるのである。

でも、勘違いしてはいけない。国の役割はパンデミックが過ぎ去って失業率が下がったら魔法のように正常に戻るわけではない。確かに政府と中央銀行は歳出と企業救済を減らすであろう。だが、新時代の経済はこれまで長く続いている傾向が極点に達することになる。パンセミックが起きる前にでさえ、雇用状況がよいのにもかかわらずインフレ率と金利とが低水準だった。

こんにち、債券市場はまだ長期インフレについて危惧すべき兆候を示していない。それが正しいなら、財政赤字と紙幣増刷がこれから何十年にもわたって、政策決定の標準ツールに十分なりうることだろう。金融市場において中央銀行の役割が大きくなることは、一方で銀行の仲介者としての役割が低迷し、革新的でリスクテイクをいとわない正体がまだ明確に現れていない種類の銀行と資本市場が勢いを得てくることになるだろう。かつて商業銀行が頼れる拠り所としてビジネス界を支配していた時、中央銀行は彼らのための背後の貸し主として機能したのだ。今や中央銀行は、あとがない巨大なマーケットメーカー、つまり自分でリスクをとってゆく行動で、ますます証券業及びその他業務に関わってゆく存在にならねばならないのだ。(以下、全訳続く)

◆新時代の重大なリスク

経済の全域にわたり恒久的により広く、より深い支配力をもつ国家はある種の好機を作り出すことができる。低金利は政府が低コストで借り入れて、新しいインフラを作ることを可能にする。つまり成長を促し、パンデミックとか気候変動のような脅威に立ち向かうための研究所とか送電網などのインフラである。社会が高齢化するに伴い医療費と年金支払いの増加は避けられない。その結果としての財政赤字が経済への必要な刺激効果を与えるのであればなおさら受け入れるべき理由となる。

なお、新時代は重大なリスクも秘めている。インフレが予想外に跳ね上がると、中央銀行は政策金利を上げ、そして債券を買い入れるために積み上げた新準備金への巨額の利払いを余儀なくされるので、債務は全面的に激震を受ける。そしてもしインフレ率が低水準に推移していても、この新しい資金調達の仕組みは各種ロビイスト、労働組合および仲間うちの情実利益実現の餌食になりやすいのである。

経済の安定成長は通貨量の調整で得られるという通貨主義の主要な見識のひとつは、節操のないマクロ経済の運営は政治家たちに際限なく情実行為の機会を与えることにつながるということである。実際に今、政治家たちはどの会社が税優遇措置を得るべきで、どの労働者に対し彼らに元の仕事の就業機会が見つかるまでの間、国から支払いがなされるべきかを裁量しているのである。私企業セクターへの貸し出しの一部はそのうちに不良資産となり政府はどの企業を倒産させるかを決めざる得なくなるだろう。カネがタダの時なら企業は救済し、陳腐化した業界での雇用機会を守り投資家を救おうということになるのだ。

しかしながら、そのような策は一時的な刺激効果はあるにせよ、ゆがめられた市場、モラルハザードそして低水準成長をもたらす処方箋(せん)となるであろう。政治家の近視眼に由来する恐怖のために、景気を管理するための唯一かつ単純な道具である金利を操り、多くの国で政府から独立しているはずの中央銀行に権限を委譲するのである。でも、限りなくゼロに近い現在の金利は道具として無力化していると思われ、世界の中央銀行を経営する君主であるはずの人たちは政府の負債管理をする片腕として仕える召使に成り下がっているのだ。(以下、全訳続く)

◆自由市場とただ飯

経済状況が新しい局面を迎えるたびに新しい困難に遭遇するのである。1930年代のあとには不況を防ぐことが課題であった。1970年代と1980年代初期には繫栄なきインフレ(スタグフレーション)の終結が至上の命題であった。政策立案者のこんにちの課題は景気変動の管理を可能とし、経済を政治利害のために取り込んでしまうことなく金融危機と対決できるような枠組みを作り出すことである。そうするには、財政上の権限を専門技術者に任せたり、金融システムを改革して中央銀行が金利水準をかなりのマイナス領域にまで引き下げたりして、消費者を旧態然とした銀行から引き離しフィンテックとデジタルペイメント(キャッシュレス)に向かわせる革命的転換を起こすことが必要になる。大きな賭けである。失敗すると、タダがね(フリーマネー)の時代がいずれ驚くべき代償を我々に要求することになろう。(全訳終わり)

※今回紹介した英文記事へのリンク

https://www.economist.com/weeklyedition/2020-07-25

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