引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校学長、博士(新聞学)。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆リモートで全国規模に
2020年11月13日、「第一回重度障がい児者の生涯学習フォーラム」が東京都渋谷区の国立オリンピック記念青少年センターで行われた。センターをメーン会場にして入場者は50人に制限し、そのほかの参加者はズーム会議を通じてのオンラインでの参加となったが、それがかえって全国規模の大会になった感がある。
フォーラムは文部科学省の障害者の生涯学習を推進する委託研究事業の一環で、昨年の計画段階では通常のホールで大人数を集めての初めての全国規模の集会を目指そうとしたが、やはり重度障がい当事者が遠くまで移動するには困難があり、集合は限定的になってしまう悩みがあった。
それがコロナ禍によるリモート開催で、札幌市の医療法人稲生会、松山市の愛媛大学での取り組みが遠隔からスムーズに発表され、参加者も広がりを見せ、重度障がい者への「学び」の全国的なネットワークが構築できる可能性を確認ができたと思う。
フォーラムでは、これまで地道に活動してきた飯野順子・NPO法人地域ケアさぽーと研究所理事長があいさつに立ち、文部科学省総合教育政策局男女共同参画共生社会学習・安全課の小林美保・障害者学習支援推進室長が政策を説明し、重度障がい者の生涯学習への取り組みにも対応していく姿勢を示した。
◆「名前」を出して知ってもらう
「訪問型の医療的ケア児者の生涯学習の実践と課題」と題しての各地からの報告では、「訪問大学おおきなき」の相澤純一・NPO法人訪問大学おおきなき理事長、「訪問カレッジEnjoyかながわ」の成田裕子・NPO法人フュージョンコムかながわ・県肢体不自由児協会理事長、「みらいつくり大学校」の土畠智幸・医療法人稲生会理事長、「訪問カレッジ・オープンカレッジ@愛媛大学」の苅田知則・愛媛大学教育学部特別支援教育講座教授、「ひまわりHome College」の藤原千里・NPO法人ひまわりProject Team理事長が登壇した。
当事者のニーズに保護者や特別支援学校の教員らの思いが活動につながっている活動は、やはり資金面での持続性が課題であることも指摘された。
私が長々と省略をせずに参加者のフルネームを書くのは、これら市民の集まりから始まった取り組みが一人でも多くの必要な方に知ってもらいたいとの思いからで、保護者がインターネット検索でわらをもすがる思いで、教育の場を探してインターネットで探しに探した、という話はよく聞くし、結果的に私の名前が引っかかって、そこからつながった例もある。
特にNPOで運営している3法人の活動は多くの人に届いてほしい。また、この分野で「医療」「高等教育」の立場からアプローチしているのが、札幌市から発表した稲生会の土畠智幸理事長と愛媛大学の苅田教授である。
◆「いいね」をつなぐ
土畠理事長が主宰する「みらいつくり大学校」は学問の面白さを伝えようとの情熱が「楽しそう」な雰囲気となって伝わってくる。ハイデガー哲学をテーマにしている点も「素敵じゃないか」と思ってしまう。愛媛大学では「大学」という枠組みを利用しての学びの場の拡充にも自信をのぞかせたし、ここで学ぶ学生の「インクルーシブ度」が上がるのは間違いないだろう。
これら各地の取り組みはそれぞれの地位特性やつながる仲間によって形態はさまざまであり、何よりも障がい当事者のニーズを考えて形作られるのがこの分野の最大の特徴だから、画一的にはならない。その画一的にはならないそれぞれの「いいね」をつなぎ合わせることで、お互いが支えあいながら、時には補完しあいながら、重度障がい者の学びは作られるのだと思う。
その中にあって、「みんなの大学校」は福祉サービスではく、ウエブでどこでもつながれる点を生かして、あらゆる重度障がい者の学びに対応していきたい。ちょうどこの日は、私が兵庫県西宮市にいて学生が埼玉県にいてウエブを使っての遠隔で講義を行ったが、ほぼ口をかすかに動かして反応する学生は、私の講義で多用する4択質問に答えの選択肢を私が口にすると、彼は該当する答えに口を動かすしぐさで意思を示してくれる。
それは、間違ったり、正解だったりするのだが、そのやりとりは、とても面白いし、教える側にとっても心が打ち震えるコミュニケーションである。
■学びで君が花開く! 支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校
http://www.minnano-college-of-liberalarts.net
■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
■引地達也のブログ
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