山田厚史(やまだ・あつし)
ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。
日本経済新聞の1月6日付夕刊に「ノルウェー EV 通年で過半」という記事が載っていた。
2020年の乗用車新車販売で、電気自動車(EV)の比率が全体の54%と半数を上回った、という。ノルウェーはEV先進国と聞いてはいたが、日本にいると世界のトレンドが見えない、と身にしみてわかった。
◆EV先進国で競う独米企業
年間を通じて最も売れたのが、独アウディの「e-tron」。2位は米テスラの「モデル3」、3位は独フォルクスワーゲンの「ID.3」だったという。どれもEVだが、このほかに、プラグを差して充電するプラグインハイブリッド車が20%を占め、ガソリン・ディーゼルの化石燃料車は17%しか売れなかったという。
ノルウェーは、2025年までに新車で販売する乗用車は全てEVか燃料電池車(FCV)などの「ゼロエミッション車」にするという。北極の氷原を抱えるだけに温暖化を食い止めようとする政府の本気さが感じられる。パリ協定が定める「温室効果ガス排出の実質ゼロ」を真っ先に実現しようと揺るぎない方針で臨んでいるから、人々も行動で応じているのだろう。
日本も2050年までに「温室効果ガス排出の実質ゼロ」を目指している。経済産業省は2030年代半ばを目途に、乗用車の新車販売は全て電動車に、という目標を掲げた。ところが「電動車」というのがクセモノだ。モーターを補助動力にするハイブリッド車もこの分類に入る。30年代半ばという目標年次も曖昧(あいまい)で、いつまでに自動車の化石燃料ゼロを果たすのか、心意気を示す核心部分が曖昧にされている。
◆化石燃料を断ち切れない日本
日本はノルウェーのような自動車消費国でなく、世界に冠たる生産国であることがEV化の腰を重くしていると言われる。エンジン技術に強みがあり、分厚い下請け企業群を擁しているため、化石燃料を断ち切れない。ハイブリッド車を認めることで30年代半までエンジンを作り続けることが可能になる。精密加工や組み立て技術を得意とする企業に仕事を残すことは切実な課題だが、自動車の動力はやがて電気とモーターが主流になることは避け難い。企業の自己改革を緩慢にする恐れはないだろうか。
中国の広州市で特派員をしている友人から先日、深圳や広州など中国南部では緑色のナンバープレートをつけた電気自動車が当たり前のように走っている、という話を聞いた。ほとんどが中国製で、テスラのような高級路線でなく、人民の足として日本の軽自動車のような乗り物になっているという。
◆既存の技術、強みのはずが変身の妨げに
中国はエンジン技術では日本にかなわないと見て、電気自動車で逆転を狙っているらしい。日本企業に技術を習った韓国のサムスンが家電のデジタル化で日本を一気に追い抜いたように、中国はEV化で自動車の主導権を取る構えだ。戦後の日本が、町工場だったホンダやスズキが原付自転車をテコにオートバイ産業を立ち上げ、自動車メーカーとして世界に羽ばたいたように、無数のベンチャー企業がEVに取り組むことで時代の産業を生み出そうとしている。
エネルギー転換は産業の主役を根幹から変える。既存の技術で強みを持っていることは変身の妨げにさえなる。大転換期は「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」なのかもしれない。そう考えると、ドイツの2社がノルウェーでEV専門の米テスラと競っているのは立派だ。
[…] 2020年の乗用車新車販売で、電気自動車(EV)の比率が全体の54%と半数を上回った、という。ノルウェーはEV先進国と聞いてはいたが、日本にいると世界のトレンドが見えない、と身にしみてわかった。 https://www.newsyataimura.com/yamada-45/ […]