引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校学長、博士(新聞学)。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆一方的なアプローチではなく
精神障がいや発達障がいの方々を支援する際のアプローチであるSST(Social Skills Training)は支援活動の社会への拡大とともに、言葉としては浸透しているが、その手法は幅広く、支援現場での評価は様々である。
日本語では「社会生活技能訓練」もしくは「生活技能訓練」と呼ばれ、社会生活における困難さを対話を通じて克服し自信をつけていくトレーニングという位置づけであるが、前提として困難さを抱えている方が、克服するためのものであり、それは当事者にとって、受け手に対する一方的なアプローチでもある。
しかしながら、困難さを克服するには、障がいのある方だけの問題ではなく、社会の側もその困難さを理解して初めて、無理のない関係性が築かれ、当事者が社会生活を営めるようになるはずである。その関係性を構築するアプローチとして、私も携わる発達支援研究所が提唱するのが「逆SST」の手法である。
◆克服されない困難さ
SSTは障がいのある方のくせを見つけ改善する認知行動療法と社会学習理論をもとにした支援方法、とされる点を同研究所の山本登志哉所長はこう指摘する。
「これまでのSSTは、定型的な『普通』の感じ方や考え方を基準に作られているため、発達障がい者は無理にそれに合わせさせられる、という苦労を続けることにもなります」
となると、困難さは克服されないことになる。さらに山本所長は「『相手への気遣いとは何?』とか『普通ってなに?』といったことについて、感じ方や考え方が全然ズレていて、しかもそのズレに発達障がい者の側も定型発達者の側も気づいていないことが多いのです」と説明する。
そのため「多くの発達障がい者は『自分にとってあたりまえのこと、普通のこととして感じたことが理解されない』ことに苦しんでいます。定型発達者も『発達障がい者の身になって理解する』ことに挑戦し、『お互いに理解し合う努力をする』ことが本当の共生への大事な出発点となると思いました」と考え、逆SSTを提示したという。
◆お互いの間の「ズレ」に気づく
障がい当事者を変えるのではなく、私たちが変わっていくこと、私たちが障がいへの理解を深めること、これら社会へのアプローチが逆SSTである。
この手法を展開するにあたって、効果性を高めるには何がポイントになるのだろうか。
「最初のステップはお互いの間にある『ズレ』に気づくことです。『今までの自分の理解の仕方、自分の常識では、相手を理解できないんだ!』ということに気づくことです。実はこれがとても難しいことでもあります。誰でも自分が普段何も考えずにただ当たり前と思っていることを改めて考え直すのは難しいからです。ではどうやってそれに気づくことができるのか。それは相手の振る舞いを自分の理解で説明し、『こういう理解でいいのでしょうか?』と相手に聞いてみることです。そうすると、お互いにとんでもない誤解がそこに含まれていることに気づき始めることになります。そこから、『相手を理解するために自分の常識自体をもう一度考え直す』きっかけが生まれます」(山本所長)
ズレに気づき、その理解を声にし、対話を通じて今までの「当たり前」を考え直すプロセス。それは新しい発見がありそうで、私は単純に「それって面白そう」だと思ってしまう。
◆自分とは違う、という視点
具体的には、このプロセスを共有するために、「日常で発達障がい者が周囲から理解されずに困ったり、つらい思いをしたりしている」エピソードを当事者に語っていただき、その当事者の気持ちを理解することに定型発達者が挑戦し、対話の中から理解を深めていく、というやりとりを行っていく手法が今回の逆SSTである。
山本所長は「まずはこのような試みを繰り返し、どんなテーマで話し合うとより効果的か、話し合いの時はどんなルールが必要かを見極めていき、いろんな方が自分たち自身で試してみられるようにパッケージ化したやり方を作っていきます」と言う。
そのために、姿勢として大事なことは、「お互いに相手のことを『理解できない人』と考えず、『自分とは違う感じ方、考え方をしている』と見ることです」という。この逆SSTは3月21日に発達支援研究所が主催しズーム開催されるので、是非、参加して自分も変わっていく、という体験をしてほしいと思う。参加費は無料。詳しくはこちらをご覧ください。
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