п»ї 「マンボウ」という緩み-本気度疑う政府の無策『山田厚史の地球は丸くない』第185回 | ニュース屋台村

「マンボウ」という緩み-本気度疑う政府の無策
『山田厚史の地球は丸くない』第185回

4月 02日 2021年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

政府は4月1日、新型コロナ感染を抑制する「まん延防止等重点措置(マンボウ)」を5日から5月5日まで、大阪・愛知・宮城の1府2県に発動することを決めた。首都圏でも感染者は急増、「第4波襲来」とテレビや新聞が大騒ぎするが、街は人出でにぎわい、「マンボウ」という呼び名に弛緩(しかん)した空気がまといつく。

◆国民に辛抱を強いるばかりの対策

危機感が浸透しないのは、政府の本気度を疑っているからではないか。感染者が急増しても「緊急事態宣言」は発動されない。「準緊急」であるマンボウに「値切った」のは、要請した大阪の吉村洋文知事であり、決めた菅義偉首相である。

2人とも、判断を誤った過去を引きずっている。吉村知事は、早々に緊急事態宣言の解除を求め、菅首相は感染に収束が見えない段階で渋る東京都などを押し除け、解除を決めた。今になって再び「緊急事態」では失敗を認めたことになる。東京五輪の露払い聖火リレーをスタートさせた。首相は、もう後戻りできない、と切羽詰まった心境ではないだろうか。

東京五輪は7月23日に始まる。あと4カ月を切った。しかし政府は、本気で開催を考えているのだろうか。やるなら、感染防止を徹底することが不可欠だ。人々に「自粛」を求めるだけでなく、政府がすべきことをして「真剣さ」を示し、成果を挙げることが必要になっている。

「マンボウ」は、業者に時短営業を命令できる権限を知事に与え、違反者に過料を科す制度だ。「お上」が「下々」に犠牲を強いる政策である。自粛では足らないから、命令で「暮らし」を押さえ込む。

命と健康を脅かすウイルスとの闘いだ。ガマンを受け入れことも、止むを得ないことかもしれない。では、行政はなにをするのか。

政府の対策は、人々に辛抱を強いる政策ばかりではないか。唯一、政府の責任でやっているのがワクチンだが、他の先進国に比べ、はるかに遅れている。接種を受けた人は4月1日現在で人口の1%にも達していない。

「コロナとの闘い」は、国民と政府が一緒になって取り組む課題だ。人々は不自由な暮らしを受け入れ、政府は感染源を洗い出し、適切な措置を取る。双方がなすべきことを果たして、「闘いに打ち勝つ」ことができる。

◆感染対策の作戦の失敗認めず

「感染源を見つけ出して叩く」という攻めの対策が政府の役割だが、驚くことに、「できていない」というのだ。

3月31日の衆議院厚生労働委員会で、政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は「今は、感染源の調査はほとんどできていない」と率直に語った。立憲民主党の早稲田ゆき議員の質問に答えたもので、尾身会長は、感染対策として検査を充実させる必要性を述べ、課題を3点挙げた。

一つ目は高齢者施設で徹底した検査を行うこと。クラスターが各地の老人施設で問題になっている。入居者や従業員の検査を急ぐ必要がある。二つ目は感染地域のモニタリング調査。無症状の感染者を見つけ出して隔離することが感染対策に不可欠だ。三つ目が「感染源の深掘り」。ウイルスの巣(エピセンター)になっている地域や場所を見つけ出し、制圧する。このうち「深掘り」が「できていない。これからの課題だ」と尾身会長は指摘した。

厚生労働省も「感染源を深掘りする体制はまだできていない」という。新型コロナウイルスが問題になって1年あまり経っている。検査の充実はずっと叫ばれてきたが、エピセンターがどこにあるのか、探し出す検査体制ができていない、というのだ。感染対策の作戦が失敗していた、ということではなのか。

コロナ対策は尾身会長や感染症対策アドバイザリーボードの脇田隆字座長(国立感染症研究所長)ら厚労省と関係の深い「御用学者」を中心に進められてきた。初期に「感染者のほとんどが軽症か無症状。重篤化した患者を重点に対策を」と見立て、判断を誤った。検査をすれば無症状患者が殺到し医療機関が混乱する、とPCR検査が抑えられた。感染源調査は発生したクラスターを追いかければわかる、としていたが、これが失敗だった。市中感染が広がり「感染源不明」が増え、点と線でクラスターを追跡する手法が行き詰まった。事態は昨年夏に明らかになっていたが、失敗を認めず「検査拡大」への方向転換は言葉だけで、実施は遅れている。

◆寒々とした検査体制の現状

では、「老人施設の検査徹底」や「感染地域でのモニタリング調査」はどうなっているのか。内閣府審議官や厚労省の局長らが答弁したが、内容はお寒いばかりである。

高齢者施設での検査は、希望する施設に手を挙げさせる希望者限定で、全施設を対象とする調査になっていない。3月16日現在で6813施設が希望し、3550施設で実施された。希望した施設の半分程度で1回目の検査が行われただけ、という有り様だ。手を挙げたのは、感染防止に関心の高いところだろう。クラスターになりやすいのは、管理体制が行き届いていない基盤が弱い施設である。積極的な施設だけを対象にする政策ではこぼれ落ちる施設が出るだろう。それにしても遅い。検査は1回では足りない。何度も検査できる体制を整える執行体制を構築するのが行政の役割だ。

無症状者を探す「モニタリング体制」も本気度を疑う。内閣府によると、1都2府4県で2万1500人を検査し、7人の陽性を見つけた、という。早急に1日1万件の検査体制を整えるという。

「検査充実」は昨年夏、安倍晋三首相(当時)が約束した。「1日1万人体制」が叫ばれながらまだ2万件。2日分の検査しか実施されていない。見つけ出された陽性者は7人だけ。本気で「無症状感染者」を探しているのだろうか。感染者の数が増えるのが怖くて検査をためらっているのでは、と疑いたくなる結果である。検査キッドを配るなどモニタリング調査を地域ごとに徹底して行い、感染の濃淡を調べる精密調査でエピセンターをあぶり出す、という体制をなぜ取らないのか。「検査軽視」だった初期の誤りを、まだ引きずっている。

「検査充実」と言いながら、高齢者施設は「希望者だけ」。モニタリング調査はやる気なし、「感染源の深掘り」はできていない。行政が、すべきことをせず、「不便」だけを求める国民はたまらない。

◆あぶはち取らず、続く政府の迷走

政府は「五輪開催」への機運を盛り上げようと、聖火リレーをスタートさせた。テレビが連日、沿道のにぎわいを映し出している。スポーツイベントの観客制限を緩和し、「観客つき五輪」への期待感を煽(あお)る。緩める政策を取りながら、一方で飲食店や利用者を縛る「マンボウ」の発動。

国策五輪に向けた「緩和政策」と、五輪開催に欠かせない「感染対策」。あぶはち取らずで、腰の定まらない政府の迷走が続く。これで「安全・安心」の五輪ができる、と菅首相は本気で考えているのだろうか。

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