山本謙三(やまもと・けんぞう)
オフィス金融経済イニシアティブ代表。前NTTデータ経営研究所取締役会長、元日本銀行理事。日本銀行では、金融政策、金融市場などを担当したのち、2008年から4年間、金融システム、決済の担当理事として、リーマン・ショック、欧州債務危機、東日本大震災への対応に当たる。これからの25年は「人手不足の時代」だ。前回まで、労働力の増加を期待できるカテゴリーとして、女性と高齢者の動向をみてきた。残るカテゴリーは、外国人だ。
日本の労働市場は、すでに外国人に多くを依存している。今後も一層依存は高まるだろう。しかし、これまでの国の対応は後追い的だったようにみえる。
今後期待どおりに外国からの労働力が増える場合、快く働き、生活してもらえるだけの柔軟性が日本の社会にあるだろうか。
◆外国人就業者比率はストックとフローに大きな差
国内の就業者全体に占める外国人の比率は、ストックとフローに大きな差がある。ストック(就業者全体に占める外国人の比率)は、わずか2%台にとどまる。世界でもとくに低い。移民を受け入れないことを原則としてきた政策の結果である。
一方、フロー(就業者の増加数に占める外国人の比率)は、この10年あまりで急速に高まった。2009年からの11年間で33%に達する(参考1参照)。実に、新規就業者の3人に1人が外国人だった計算となる。
(参考1)就業者数および外国人就業者数の推移
(注1)労働需給との関係を明確にするため、本表ではリーマン・ショック後の完全失業率のピーク時(2009年7月)を起点に計算している
(注2)「外国人雇用状況の届出状況」は、毎年10月時点のデータを集計したもの(翌年1月に公表)。したがって、本表ではそれぞれの時期に2009年10月および20年10月時点の外国人就業者数を対応させている
(注3)完全失業率は季節調整済み、その他は原計数
(出典)総務省統計局「労働力調査」、厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」を基に筆者が作成
政府は、これまで高度人材の受け入れに積極的に取り組んできた。在留資格別の統計をみても、高度人材を含む「専門的・技術的分野」の就業者はたしかに増えた。
しかし、最も増加した在留資格は「技能実習等」だった。これに「資格外活動(留学等)」、「身分に基づく在留資格(永住者等)」が次ぐ。「専門的・技術的分野」は、これらに続く数だった(参考2参照)。
すなわち、近年の外国人就業者の急増は、政策の結果というよりは、生産年齢人口の減少を背景とする労働需給の逼迫(ひっぱく)を反映したものである。
(参考2)外国人就業者の増加数(在留資格別)
(出典)厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」を基に筆者が作成
◆コロナ禍で外国人就業者数は減少か
次に、コロナ禍が外国人の就業にどう影響したかをみてみよう。「外国人雇用状況の届出状況」は、毎年10月時点のデータを翌年1月に公表するものである。したがって、現時点は2020年10月が最新データであり、新型コロナの感染初期の段階のものにとどまる。
これを踏まえた上で上記のデータをみると、19年10月からの1年間の外国人就業者は6.6万の増加と、それまでの年17万人台ペースから大きく鈍化した。
法務省「出入国管理統計」によれば、外国人の出入国は2020年に出国超に転じた後、21年1~9月も出国超が続いている。これを踏まえれば、来年初に公表される「外国人雇用状況の届出状況」(21年10月時点)でも、外国人就業者数は減少に転じた可能性が高い。
なかでもコロナ禍の影響を強く受けた在留資格は、「資格外活動(留学等)」と「技能実習等」だ(前掲参考2参照)。
留学生は、もともと飲食サービス業でのアルバイトが多く、日本人の学生と同様に、コロナ禍で職を失うケースが多かったとみられる。また、「技能実習」は中小企業の雇用が多く、景気の影響を受けやすい。
◆外国人就業者の規模感は?
以上を踏まえれば、当面は、コロナ禍で減少した外国人が国内に戻ってきてくれるかどうかが焦点となる。
では、長期的にみて、人手不足の緩和にどれほど期待してよいものだろうか。
前回述べたように、日本の労働力は、今後25年間で約1470万人の「自然減」が発生する。これを、女性や高齢者の新規労働参加(「社会増」)で打ち返すことになるが、せいぜい500万人程度だろう。
外国人はどうか。本稿では、①過去10年間(09年⇒19年)の外国人就業者の増加数と、②過去5年間(14⇒19年)に絞った増加数を基に、機械的に試算してみよう。ちなみに、それぞれの実績(年平均)は①11.0万人、②17.4万人だった。
仮に2045年まで上記の増加ペースが維持されるとすれば、今後25年間の累計増加数は、①約273万人、②約436万人となる。人手不足の緩和に大きな支援材料となることは間違いない。言い換えれば、近年の増加ペースはそれほど劇的なものだった。
◆日本の市場は外国人に選ばれるか
上記を基に2045年における外国人就業者比率(ストック)を試算してみると、現状の2%台から7~10%まで一挙に切り上がる計算となる。
「自然減」の規模からみて、国内市場にこの程度の労働需要はあるだろう。問題は、外国人が就業者全体の1割に到達しようとする時に、日本の社会にこれを受け入れるだけの柔軟性があるかどうかだ。
振り返れば、技能実習は、①「帰国後送り出し国の発展を担う「人づくり」に協力するもの」との建前と、②国内の人手不足を緩和するものという本音が、大きくかい離した制度だった。そのはざまで、一部に劣悪な就労環境の問題を生んだ。
政府もその反省から、一昨年、新たな在留資格である「特定技能」を導入し、介護やビルクリーニングなど、人手不足に対応する制度であることを明確にした(コロナ禍もあり、資格取得者数の実績はこれまでのところわずか)。
しかし、技能実習であれ特定技能であれ、①職種の制限②在留期間の制限③家族の帯同を認めない(特定技能2号を除く)――など、制約は依然多い。移民を受け入れない政策との整合性に配慮した結果である。
私たちが留意しなければならないのは、外国からの労働力も国際的な獲得競争の中にあることだ。制約が多ければ、いつまで日本を選択してくれるかは心もとない。
受け入れを真剣に推進するのであれば、就業制度のあり方だけでなく、日本語教育の充実など、抜本的な態勢整備が必要となる。
移民政策を真正面から議論することなしに、対症療法的に受け入れていくやり方は限界にきているようにみえる。中長期的な人口動態の視点が必要だ。
国内の人手不足に対応しつつ、どうすれば外国人に快く働き、生活してもらえるか。この国の誠実さが問われている。
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