引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校学長、博士(新聞学)。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆障がい特性に関わりなく
今年5月、障がい者の「情報格差」解消を目指す新法「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が衆院本会議で全会一致により可決され、成立した。障がい者が日常生活や災害時に必要な情報を「健常者」と同じように得られるようにコミュニケーション環境を支援することに主眼を置いたもので、今後の運用に向けて政府に法整備や財政面で必要な措置を講じるよう義務付けている。
ここで示される代表的なコミュニケーションは手話や字幕、点字などであるが、この取り組みは日常の取り組みの蓄積が社会のコミュニケーションを変え、「誰もが」情報格差がない状態にすることの第一歩と位置付けたい。障がいの特性に関わりなくコミュニケーションの障害を排除し、コミュニケーションの切り口で「情報」を受発信する際のバリアフリー化の進展を目指すことをあらためて社会全体で共有できるかが、まず重要だ。
◆当事者に近づいた新法
この新法は超党派の議員連盟が研究を重ね、当事者団体へのヒアリングを経た議論からまとめたもので、当事者視点を重視した、という。「障害」といっても多様であるから、障害を固定化せずに障害に応じて情報を得る手段を選択したり、時間差なく必要な情報を得たりできるように、国に法に基づく対応や財源確保を義務づけているのも特徴的だ。
障がい者が必要な情報を得て円滑に意思疎通できるよう施策を定めることとし、実施する責務を国や自治体に課しているが、何が問題かは当事者の視点でないと浮かび上がってこない面もあり、新法の中でも施策の決定には「当事者の意見を聞き、尊重する」ことも盛り込んでいる。この視点は歓迎すべきで、それは情報格差をなくす取り組みは以前から始まってはいるが、それが技術的かつ、限定的な範囲に周知はとどまっていたから、なおさらに新法が当事者に近づいた印象がある。
◆20年の蓄積
この法律の基本的な考え方としては以前からあり、それは20年以上前のことである。総務省は、障がい者がインターネットのウェブへ容易にアクセスできるようにすることを目的に1999年5月に「情報バリアフリー環境の整備の在り方に関する研究会」(郵政省・厚生省共催)で「インターネットにおけるアクセシブルなコンテンツの作成方法に関する指針」を策定し、2004年には「高齢者・障害者等配慮設計指針 情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス」の個別規格「ウェブコンテンツ」が公示された。
これは2004年に改正され、国際規格「ISO/IEC 40500:2012(情報技術-ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン (WCAG) 2.0)」との一致を図るために2016年に改正された。この改定で、オンライン上でのコミュニケーションは進歩を重ねているが、まだまだ一般のコミュニケーションへの浸透には及ばないのが現状である。
◆メディアも他人事ではなく
国連の障害者権利条約9条には「障害のある人が新たな情報通信技術(情報通信機器)及び情報通信システムに関する設計、開発、生産及び分配を、それらを最小の費用でアクセシ ブルにするようにして促進すること」を国の義務としている。新法の流れは当然として、これを社会で共有するためには、草の根のコミュニケーションの延長線上もしくは、その中にインターネットのコミュニケーションがあり、そこに障がい者が障害を感じることを念頭にする必要がある。
これまで、障がいの有無を超えてすべてのコミュニケーションを円滑にしょうとする力は、助け合いで成り立ってきたところがある。しかし立法化されると助け合いは義務となり、コストも発生し、気軽な催しを断念するケースも出てくるだろう。
朝日新聞は「今後、どこまで具体的な対応がとられるかが課題だ」と書いているが、情報を発信するメディア企業としても一方の当事者として今後のコミュニケーションのバリアフリー化が求められている。誰もが他人事としない取り組みを模索していきたいと思う。
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