п»ї 入国は羽田、それとも横田?-安倍「国葬」 ハリス米副大統領の来日 『山田厚史の地球は丸くない』第221回 | ニュース屋台村

入国は羽田、それとも横田?-安倍「国葬」 ハリス米副大統領の来日
『山田厚史の地球は丸くない』第221回

9月 16日 2022年 政治

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

今月27日の安倍元首相の「国葬」に、アメリカからはカマラ・ハリス副大統領がやって来る。就任して初の来日となるハリス氏の行動予定は在日米大使館が調整しているが、関係者が注目するのは「入国は、また横田基地から?」という点だ。

5月に来日したバイデン大統領が、横田基地から入国したことは「ニュース屋台村」の拙稿第213回「バイデンは親会社の社長? 首脳会談から見える日米同盟の現実」(5月27日付)で書いた。「国家を代表する者が勝手口から出入りするのは無礼」という空気は徐々に広がり、民族派の論客から「ハリス氏がどこから日本に降り立つか注目している」という声が上がっている。

右翼団体「一水会」の木村三浩代表はYouTubeのデモクラシータイムス(9月11日配信)で「日本の玄関は羽田です。台湾を訪問した米国のペロシ下院議長は韓国から入国した際、横田基地から入った。ハリス副大統領がまた横田を使うのか、注目している」と語った。

◆国際慣行無視の「裏入国」

米国の要人は来日する時、羽田空港など民間空港を使うのが普通だった。広島を訪問したオバマ大統領(当時)は専用機で中部国際空港に降り、入国手続きをしたあと米軍のヘリコプターで広島入りした。

その国の主権を尊重するなら民間空港から入って入国手続きを経る、というのが国際常識である。慣行を破ったのは、トランプ大統領(当時)だった。

2017年11月に来日した時、入国は米軍横田基地だった。降りてすぐ、軍関係者などを集め、北朝鮮を非難する演説をぶち上げた後、安倍首相(当時)が待つ埼玉県のゴルフ場に米軍ヘリで飛んだ。ゴルフが終わると、専用車両を待たせてある米軍六本木ヘリポートへ。運び込んだ装甲車のような大統領専用車両で走り回り、帰国も横田基地からだった。

型破りのトランプ大統領らしい振る舞い、と話題になったが、バイデン大統領もこの流儀を継承した。

今年5月の日米首脳会談で横田基地から入国し、六本木ヘリポートに、という「裏口入国」で岸田首相と対面した。

そしてペロシ下院議長も7月、韓国の米軍基地から横田に。今や米国の要人に「横田-六本木」の裏ルートが定着しつつある。

違和感を覚える政府関係者は少なくないが、警備に手間がかからず、地上の混雑を避けられる「安全と効率」を重視する警備当局と米国側の意向が一致。「国家の尊厳」に目をつぶるというのが現状だ。

首都圏のあちこちに米軍基地が根を下ろし、東京上空も米軍が管制圏を持つ「横田空域」となっている異常さは今や常態化。他国の主権をないがしろにする米国側のやり方を、メディアも問題にしない。国際慣行無視の「裏入国」の実態は、政府関係者にしか認識されていない。

◆親米でない右翼の広がり

しかし今回は、政府が主催する「国葬」だ。来日する外国からの弔問者は日本が招待した人々。招待された者が、便利だからといって裏口から入る、という事態は異様である。

木村代表は「日本は独立国です。占領下ならいざ知らず、自国の軍事基地から入る、というのは礼を欠く。ハリス副大統領は羽田から入国するのが当然だが、果たしてどうなるか。米国が日本をどう見ているかがわかります」

グローバリズムへの反発から、ナショナリズムや民族主義の動きが世界各地で広がっている。先進国でもスウェーデンやイタリアで「移民排斥」を訴える勢力が政権を取るなど、右派の台頭が目立つ。

日本でも「保守派」とされる勢力は自民党だけでなく、日本維新の会や参政党、N党など新興の勢力に目立ってきた。 一般に「右翼」とされるのは、雑誌「WILL」や「HANADA」に登場する論客たちだが、概ね「反中・嫌韓・親米」。自民党政権を補完し、日米同盟を信奉する人がほとんどだ。

「日本では『産経新聞右翼』が幅を利かせている。対米従属で反共を売り物にしているが、本当の右翼とは言い難い。国家の自立独立を目指す民族派こそ本流だ」。元国会議員で保守派を自任する亀井静香氏はいう。戦後の東西冷戦で米国が「反共の防波堤」として育てた自民党の補完勢力が右翼として日本に定着し、親米派が右派を代表する形になった、と指摘する。

一水会は、自衛隊市ヶ谷駐屯地(現・防衛省本省)で自決した、作家で右翼活動家だった三島由紀夫の遺志を継ぐという団体。「戦後体制からの脱却」を目指し、民族の精神性・文化を軸に対米自立を訴えている。安倍元首相の国葬にも否定的で、「安倍氏は戦後レジームからの脱却を訴えたが、ならばアメリカから自立することを本気で考えてほしかった」という。

その葬儀で、米国政府を代表するハリス副大統領が米軍基地から入国するのでは、日本が米国の属国であることを示すようなもの、と見ている。

「ゴーマニズム宣言」などで人気の漫画家小林よしのり氏も右派論壇と一線を画し、「日米地位協定の改訂」などアメリカからの自立を主張する。一水会だけでなく、東西冷戦の崩壊以後、親米でない右翼が広がりつつある。

◆論壇右翼とひと味違う右傾化

旧統一教会と政界の関係も「反共」という一点で自民党とつながっていたが、「安倍銃撃」を機に、見直されつつある。韓国にルーツを持ち、KCIA(大韓民国中央情報部)と関係のあった旧統一教会と、CIA(米中央情報局)がテコ入れして育てた日本の論壇右翼には共通点がある。ともにビジネスとして成功したものの、「反共」だけでは精神的な深みを欠き、大衆への広がりは十分とは言い難い。

日本では「反米」の担い手は左翼だった。左派の牙城(がじょう)だった労働組合の組織率が低下し、ナショナルセンターである「連合」が弱体化、左派による反米運動は下火になっている。

米国側の警戒心は緩み、政府要人が軍事基地を都合のいい交通要衝として使うようなデリカシーを欠く対応が目立つようになった。

20年ほど前のことだが、米国で政府関係者から「日本で左派が反米を主張しているのは怖くない。右派から反米ムードが広がってきた時は警戒しなければならない」という話を聞いたことがある。

左派の反米は戦後民主主義の産物で、日本に民主主義が根付いているとは思えないからあまり心配はない。ビジネスになっている論壇右翼は反米に牙(きば)をむくことはないが、ナショナリズムや土着性をまとった民族派の反米思想が広がると面倒なことになる、共同体をベースにする日本の精神的風土は右派の中にあり、戦前のように暴走すると怖い、ということだった。

仲間だと思っていた右翼から反米勢力が生まれ、左派と連携するようになると、懸念する状況が生まれる。米国はかつてのような突出した力を失い、「世界の保安官」が重荷になっている。友好国に負担を求める、という動きが顕著になり、アジアでは日本や韓国への依存が高まった。米国本位の同盟強化は、政府は抑えることはできても、草の根で反発を受けやすい。

日本の右傾化は、現時点では自民党支持・日米同盟強化へと吸い上げられる構造だが、自民党への支持が低下し、草の根右翼が「脱自民」となると、事情が変わる。

7月の参院選で議席を得た参政党は、天皇を中心とした国家を掲げ、日本の土着的な精神性を強調しながら、オーガニック信仰やワクチンの危険を訴えて得票を伸ばした。論壇右翼とひと味違う右傾化が徐々に広がっている証左である。一水会が主張する「民族の誇りを取り戻す」という主張は、「天皇を中心としてきた国家」以外は、「対米自立」を主張する左派と共通点が多い。

「横田基地から入国」は、メディアが批判的に取り上げないので一般に馴染みはないが、ネットの普及で関心は広がりつつある。トランプ、バイデン、ペロシと続いたことで、「日本をなんだと思っているのか」という意見を見かけるようになった。保守派の自尊心を傷つけることに米国の為政者はどれだけ気を払っているのだろうか。衰退過程にある米国は、かつてのような懐(ふところ)の深さを失い、現場は「効率」に走り、全体への目配りを欠きがちだ。国葬に招かれた米国副大統領は、どこから日本に入るのだろう。

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