引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校学長、博士(新聞学)。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆2.7%へ引き上げ
政府が障がい者の法定雇用率を二段階に分けて上げることを決めたことで、関係する企業や支援機関など障がい者雇用の周辺では何かザワザワした雰囲気になっている印象がある。法定雇用率が2.7%になるということは38人以上を雇用している企業にその雇用義務が発生することになるから、「そろそろ対応しなくてはいけない」との思いと不安の声を該当する企業の幾人からか聞いた。
障がい者が企業で働くことで産業面での共生社会を目指す取り組みはマクロでみれば誰もがハッピーなキーワードだが、企業の担当者がいざ障がい者雇用に直面すると、未知への対応に気苦労は多いようだ。その企業側の「苦労」を取り除けば、障がい者雇用は社会に広がり、定着させることになるのだろうから、企業に焦点を当てた支援活動は必須だ。
この「企業への支援」も念頭に先日、専門家や研究者が集まってこれからの就労支援について話し合う機会を設け、次の支援の形に向けて少しずつ言葉を探し、つなげ始めている作業を開始した。
◆拙速な支援から
今考えれば、私が福祉サービスでの支援の世界に入ったのは就労移行支援事業からで、障がい者が企業に就労することで社会参加を活発にしようという機運の中で、「福祉観」が作られたような気がする。
障害者総合支援法が施行され、障害者権利条約の批准などを通じて障がい者の権利が注目され始め、障がい者自らの決定を尊重し始めた時期で、就労も自己実現の一つの形として捉えられていたが、周囲の就労支援の「支援策」は、簡単に言えば「就職試験に受かること」に焦点を当てているように感じ、少々拙速のような印象もあった。
就職しても安定した気持ちで仕事が続けられるように考える支援をするには、自分の見つめ直しや人生についての考え方などにも焦点を当て、長いレンジ・広い視野での就労支援が必要だから、それをひとくくりのキーワードで表したのが「コミュニケーションの改善」であった。
◆新しい踊り場
良好なコミュニケーションは生活へのストレスもなくなるし、就労もスムーズであることを何人かの「コミュニケーション改善の支援」事例によって積み重ねた。その支援は今もスタンスは同じであるが、やはり周囲の状況や環境によって捉え方は変わってくる。
良質なコミュニケーションを行うには、良質なコミュニケーションが成り立つ相手やコミュニティーの存在を求める。今回の議論では、このコミュニティーをどう作るか、また企業の中で良質なコミュニケーションを成り立たせるには、どのような方策が必要かに焦点が当てられた。
この二つのポイントを実行するには、これまでの枠組みにとらわれず、「福祉サービス外」であることが、柔軟性のある支援につながるという意見となり、今後はその場をどこにするかが大きなテーマになりそうである。この場は、良質なコミュニケーションを行う現場であろうとするから、この新しい現場づくりそのものが、支援の新しい踊り場になるような気がしている。
◆「わからない」が楽しい
つまり、新しい枠組みを考える、ことである。
「リスキリング」を政府が叫び始めて瞬く間に、その必要性が社会全体で論じられているのを見ると、小さな一歩が共感を呼び大きなうねりになっていくのは、必要性というベクトルがどこかで様々なモチベーションとシンクロしていくからで、法定雇用率アップをきっかけにした新しい障がい者雇用支援は、その動きがどこかで企業のニーズとシンクロしてくると考えたい。
先日の協議では、企業の中で現在活躍するジョブコーチとの連携や企業における障がい者雇用の好事例から学びながら、その本質を分析することになったが、行き着く 先は参加者全員、まだわからない。
ただ、そのわからないこと、を考えていくのは楽しい。わからない、を一緒に考え、何かを見つけ出す喜びをまた多くの人と分かち合いたいと思う。
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