п»ї G7広島は「世界分断サミット」戦争に備え 中国を敵視 『山田厚史の地球は丸くない』第238回 | ニュース屋台村

G7広島は「世界分断サミット」
戦争に備え 中国を敵視
『山田厚史の地球は丸くない』第238回

5月 26日 2023年 国際

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

広島で開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)は、「戦争に備えよ」という空気を醸し出した。ウクライナのゼレンスキー大統領は飛び入り参加で「反転攻勢」を訴え、G7が対ロシア戦にどう協力するが大きなテーマとなった。中国に対しても台湾海峡、経済安全保障、核開発を巡り危険視する発言が相次いだ。広島会合は、G7諸国とロシア・中国が対峙(たいじ)する「新冷戦」に世界が入ったかのような「分断サミット」となった。

◆程遠い核軍縮、核廃絶

「広島まで来てこれだけしか書けないかと思うと、胸がつぶれそう。(サミットは)大変な失敗だったと思います」

被爆者として核廃絶に取り組んできたサーロー節子さん(91歳)は、G7首脳声明に落胆した。広島で開催するなら平和を希求する会合になってほしいと願っていたが、「戦争を続ける準備の話ばかり。うれしくありません」という。

岸田首相は、被爆地広島出身の政治家として「核廃絶へとつながる一歩を踏み出したい」と意気込んでいた。だが発表された、G7首脳が出した「核軍縮に関する広島ビジョン」は被爆者や平和団体を失望させた。被爆者らの努力で2021年に発効した「核兵器禁止条約」には一言も触れていない。核保有国の米・英・仏と、核の傘に入っている日本の立場をそのまま文章化したような声明で、核保有国の既得権を認める核不拡散条約(NPT)の堅持を謳(うた)い、「現実的、実践的、責任あるアプローチ」が大事だと強調した。核を持たない国がかつぐ核禁条約は、非現実的、責任あるアプローチではないと暗に主張する内容で、核兵器は抑止力として重要だと位置付けた。

抑止の矛先にあるのが、ウクライナを核で威嚇(いかく)するロシア、核実験を続ける北朝鮮、核開発が不透明な中国である。G7首脳宣言は、核兵器を保有する二つの勢力が互いを敵視し、にらみ合う構図を描いてみせた。

ロシアは「非西側諸国を取り込み、ロシアと中国の発展を阻止する会議だ」と反発。中国は台湾問題に言及したG7に「強烈に不満、断固として反対する」と怒りをあらわにし、「中国は核兵器先制不使用を表明している唯一の核兵器保有国だ」「G7には核軍備管理問題で他国に命令を出す資格はない」と反論した。

核の先制不使用は、G7の中で表明している国はない。米国はバイデン政権が検討を表明したものの立ち消えになった。英仏や日本が「先制不使用を宣言すると抑止効果が低下する」と働きかけたと報じられた。最大の核保有国が「先制使用」を否定しない現実を考え直すことこそ核廃絶へのはじめの一歩だろう。相手側の核は問題にして自分たちの核は「抑止力」という理屈では核軍縮は程遠い。

◆「ウクライナ支援」姿勢、一段と明確に

ウクライナ戦争を目の当たりにし、世界は「悲惨な戦争をどう終わらせるか」の知恵が問われている。ロシアは非難されるべきだが、ロシア非難だけでは悲劇は止まない。だが今回のサミットは「NATO(北大西洋条約機構)対ロシア」の様相を深めてしまった。ゼレンスキー首相の飛び入りでG7は「ウクライナ支援」を一段と明確にした。

象徴は米軍が最新鋭戦闘機F16の供与を容認したことだ。米国はいくら要請されてもF16の供与に応じなかった。最新鋭戦闘機が供与されれば軍事バランスは大きく変わる。ウクライナを飛び越えロシアと米国が実質的に戦う戦争になりかねない。今回はオランダのF16が供与される見通しだ。米国が直接供与しなくても、NATOに配備されたF16がウクライナに渡れば米国の戦争協力は一段と踏み込んだものになる。

その陰で日本も関与を深めた。自衛隊車両100台を提供することを約束した。日本には戦争をしている国に武器を輸出しない、という原則があるが、ウクライナでは殺傷力のある兵器でない分野での協力なら、と規制を緩和してヘルメットや防弾チョッキを提供してきた。今度は戦場を駆け回る車両にまで広がった。銃器を装備すれば戦闘車両になる。日本はウクライナ側への関与を深めた。

G7は、ウクライナ軍の反転攻勢を支援する「戦闘体制の強化」を広島で確認した。議長国日本は、ロシアにもNATOにもつかないインドやブラジルなどグローバルサウスの首脳を招き、G7の行動に理解を求めた。狙いは「結束の強化」である。だが、共通の敵を意識する結束で、言葉を変えれば「世界の分断」である。

◆「経済安全保障」という名の「分断」

「結束強化」は戦場だけではない。G7首脳宣言は、戦争の背後にある技術や製品など経済活動まで「分断」を広げた。サプライチェーンと呼ばれる民間企業の分業体制に国家が踏み込む。

米国はすでに中国に対する半導体輸出規制を実施している。日本には高性能の半導体製造装置を中国に輸出しないよう圧力をかけ、従わなければ米国市場で不利益を被る措置を検討している。電子機器・通信など先端産業で中国の勢いを削ぐためアメリカは高性能半導体が中国に流入することにブレーキをかけたい。一方、中国はハイテク製品に欠かせない素材である原料金属を握っている。世界が平和でヒト・モノ・カネが国境を越えるのが当たり前の時は、生産・販売で共存共栄が可能だった。それが今回、「経済安全保障」が叫ばれた。生産に不可欠な素材や部品は自分たちの仲間内で調達できる体制をつくる、という方針が打ち出された。

つまり中国との険悪な関係になって重要物資が入らなくなっても、打撃を受けないサプライチェーンをG7側で構築するという考えだ。脅しに屈しない自前の供給体制、つまり「戦争への備え」である。日本は開放経済体制で成長してきた。「経熱政冷」といわれ政治はギクシャクしても、経済は共存共栄でやってきた。アメリカの事情でこの関係が引き裂かれるかもしれない、という危うい状況になってきた。

最大の変化は昨年末、閣議決定した安保3文書だ。国家安全保障基本計画が改定され、防衛予算を倍増し「敵基地攻撃能力」を備えるミサイルを中国に向けて配備する。

こうした防衛政策の転換と広島サミットが重なり合った。「日米関係重視」という伝統的な外交方針に従い、アメリカのお先棒担ぎを岸田首相は務めたが、中国との関係を荒立てることは、果たして日本に得策なのか。

◆米と距離を置く欧州勢

今回のサミットで明らかになったのは、アメリカと距離を置こうとする欧州勢の動きだ。とりわけドイツとフランスは中国との関係保持が国益と考え、台湾海峡への関与に慎重だ。首脳宣言は最終章「地域情勢」で、中国についてこう書いている。

「我々は、国益のために行動する。グローバルな課題及び共通の関心分野において、国際社会における中国の役割と経済規模に鑑み、中国と協力する必要がある」

「我々の政策方針は、中国を害することを目的としておらず、中国の経済的進歩及び発展を妨げようともしていない。成長する中国が、国際的なルールに従って振る舞うことは、世界の関心事項である。我々は、デカップリング又は内向き志向にはならない。同時に、我々は、経済的強靱(きょうじん)性にはデリスキング及び多様化が必要であることを認識する。(中略)重要なサプライチェーンにおける過度な依存を低減する」

アメリカが音頭を取る「自前のサプライチェーン」は中国排除のものではなく「過度な依存を低減する」ためであると釈明している。

「中国を害することを目的にしてはいない」とわざわざ言うところに中国への気遣いを感じる。現に、中国はロシアのように他国を侵略しているわけでもなく、イランとサウジアラビアの関係を取り持つなど外交でも成果を上げている。

日本が国益追求に重きを置けば、中国との経済関係を縮小するのは方向が逆だ。有効的な関係を維持することが安定したサプライチェーンの維持につながる。ドイツ・フランスと同様、米国の対中政策から距離を取るのが穏当だろう。

大転換した安保政策は、その選択肢を狭めている。政策大転換の裏には米国の対中戦略がある。国益はどこにあるのか。「現状追認のリアリスト」といわれる岸田首相は、何を考えているのだろうか。

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