引地達也(ひきち・たつや)
特別支援が必要な方の学びの場、みんなの大学校学長、博士(新聞学)。フェリス女学院大学准教授、一般財団法人発達支援研究所客員研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。
◆「参加する」「対話する」
宮城県教育委員会が文部科学省から委託を受け実施する「共に学び、生きる共生社会コンファレンス」が同県利府町の利府町文化交流センター「リフノス」でこのほど開催された。同県は、県内の自治体、障がい者支援団体、関係機関と連携しての「学びを通じたみやぎの共生社会推進事業」を開始して1年目。コンファレンスは1年の実践を共有する場であり、まずは「知り合う」「交じり合う」ことから始めようとの趣旨で、これまでのコンファレンスとは違った雰囲気で共生社会に向けた一歩を踏み出した印象だ。
約30分の開会行事後、演壇に向かって整然と並べられたいすはすべて取り除かれ、ホールはボッチャのコート、車いすバスケットの体験場、参加者が交わるワークショップの場に様変わり。会場は、参加者が「聴く」のではなく、「参加する」「考える」「対話する」雰囲気が演出された。
◆スポーツ、芸術、話は弾む
メーン会場は「体験してみよう・感じてみよう障害者の生涯学習」として宮城県障害者スポーツ協会がボッチャと車いすバスケットの体験を実施。県立支援学校女川高等学園によるワークショップ「みんなで考えよう防災リュックづくり」は、同校の生徒が進行役となり「避難用のリュックサックに入れるものを考える」とのテーマで、初対面の参加者同士が机を囲んで話し合い、テーマに沿った防災グッズを考えた。
ホールでは年齢、性別、障がいの有無に関わらず、誰もが楽しめる「インクルーシブスポーツキャラバンの紹介」(障がい者サポーターズGolazo!、ベガルタ仙台)、「障害者アートの紹介や体験」(社会福祉法人のぞみ福祉作業所)、「障害者アートの紹介やユニバーサル学習の紹介」(NPO法人ポラリス)、「障害者の生涯学習の連携の在り方の提案」(NPO法人エイブル・アート・ジャパン)が発表された。どのブースも元気よく声をかけてくる。対話をするとの意気込みが根付いているようで、親和的な空気の中で話は弾む。
◆表情と触れ合えるから
NPO法人ポラリスは山元町で「学び合う」サロンを運営し、文科省の委託研究も受託する先進事例である。今回はサロンに集う人が生き生きと活動する様子が「出張」。似顔絵アーティストが描画を実演し、ほ乳類であれば何でも描けるアーティストは、リクエストに応じてホワイトボードに描き、その愛らく、そして正確な出来栄えに目にする誰もが感心する。驚きはそのまま実演者との対話となり、障がいの有無という意識はなくなっていく。
ベガルタ仙台の取り組みは障がい者にスポーツ機会の提供、というプロスポーツに通常みられるCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)の感覚ではなく、地域でどんな人とも一緒にスポーツを楽しむため、という姿勢で貫かれているようだ。
エイブル・アート・ジャパンは県内各地で実践されている事例をパネル紹介しており、各自治体からの参加者が「自分たちもできるか」の視点で情報が提供されていた。
南三陸町ののぞみ福祉作業所はクラフト作業を実演。作業中の利用者に話しかけると、「楽しい」の返答。見るだけではなく、その声を聞いて、そして手を動かす様子を見られるのは、実際の表情と触れ合えて、うれしいし、そして楽しい。
◆発見に誘う仕掛け
午後はポスターセッション形式で三つの事例が発表。登米市登米公民館は、ダンススクールであるGUIDANCEとNPO法人奏海の社の2者と連携し、盆踊りやダンスを練習し、地域の盆踊り大会で披露する模様を実演とともに報告した。
屋内でダンスのレッスンをするだけではなく、レッスンしたダンスを町に出て披露し、その輪を広げることで「表現の幅が広がる」とのこと。ダンスを教えたGUIDANCEのkickit(キキ)さんは、参加者とリズムに乗ってダンスをする様子を自らの動きを交えて説明した。参加者と共に「型にとらわれず」体を動かし、「自分が楽しむこと」が場づくりには重要という。
パネルディスカッション「共生社会について考える~地域の中で共に学び、共に体験し、関わり合っていくために~」では、NPO法人ポラリス代表理事の田口ひろみさんら3人が報告。それぞれの立場から生涯学習が語られた後は、聴講型の会場は、近くの人が車座になって話すスタイルとなり、それぞれの発見を語り合った。
定型的な啓発イベントの「ワク」が取り外され、一人ひとりが対等な参加者となり、新しい価値観、驚きと発見に誘う仕掛けである。この場はいかにも「生涯学習」にふさわしい、と思う。
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